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【HPVワクチン インタビュー】不安をあおらず、ご家族に選択してもらうことが大切

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「Growth Ring」では、4月に公開した「みんパピ!」インタビューで、HPVワクチン啓発において小児科医がキーパーソンであるというお話を伺い、小児科学会のセミナーレポートの掲載を行ってきました。

今回は、厚生労働省からの「積極的な接種勧奨の一時差し控え」の後も変わらずHPVワクチンを接種されてきた西真岡こどもクリニック 仲島先生に、実際に接種対象者の方へのHPVワクチンの説明方法や、接種時に留意されている点などについて、詳しくお話を伺いました。

目次

2013年~今までのHPVワクチン接種と周囲の反応

最近6か月間のHPVワクチン接種本数はどのくらいですか?

1日1名は接種しているので、1か月で25名~30名くらい、6か月間ですと180本程度でしょうか。

2013年に厚生労働省より「積極的な接種勧奨の一時差し控え」が決定されましたが、その後も変わらず接種をされていたのでしょうか?

はい。HPVワクチンも他の定期接種ワクチンと同じように対応してきました。

接種に消極的になった小児科医も多い中で、先生が接種を続けられていたのはなぜでしょうか。

「積極的な接種勧奨の一時差し控え」の理由は、科学的根拠に基づいたものではなく世論を受けての対応であったと考えています。科学的根拠の薄い情報に左右されたくないという想いがありました。

2013年当時、HPVワクチンへの各ご家庭の反応はどのようなものでしたか?

たいていは「受けたくない」という感じですね。
この頃は、医療者やワクチンへの知識がある方を対象にワクチンの説明、接種を行っていました。わたしの子どもも2013年に接種しています。

その後、広くHPVワクチンの説明をするようになったのはいつごろからでしょうか。また、反応はどのようなものでしたか?

すべての接種対象者にお話するようになったのは昨年(2020年)くらいからです。
それまでは、関係性があって"わかってくれそうだな"と思える患者さんを対象に、様子を見ながらお伝えするようにしていました。だいたいのご家庭は「テレビで(副反応の報道を)見たので怖い」という反応が多かったです。

2013年からHPVワクチン接種を続けてこられて、周囲の反応が変わってきたと感じられたのはいつごろからでしょうか。

2015年12月に、WHOが日本が接種勧告を中止していることについて「薄弱な根拠によって有益なワクチンを使わないことは、実質的な損害につながる」と名指しで批判しています。この辺りから少し空気が変わってきたなという印象があります。

子宮頸がんワクチンの不使用 WHO、日本を批判:https://www.nikkei.com/article/DGXLASDG23H16_T21C15A2000000/

その後、2016年名古屋スタディ、2017年にジャーナリストの村中璃子さんが、HPVワクチンに関する活動で科学誌「ネイチャー」などが主催するJohn Maddox 賞を受賞され、2018年12月にノーベル賞を受賞された本庶佑氏が、ストックホルムホテルの記者会見でHPVワクチンについて「国際的にみても恥ずかしい状況」と警鐘を鳴らすスピーチをされました。このことは大手メディアでは報道されなかったのですがSNSで話題になりました。こういった流れの中で少しずつ社会の空気が少し変わってきたなと感じました。

村中璃子氏がJohn Maddox 賞を受賞されました:https://www.jaog.or.jp/news/news_20171207/
子宮頸がんをなくすために 本庶教授の訴え:https://www.chunichi.co.jp/article/20493

社会的な問題となったHPVワクチン接種を続けられたことで、クレームや批判を受けるなど、クリニックにとってデメリットになるようなことはありましたか?

いえ。わたしはTwitterアカウントも運営しているのですが、とくにクレームや批判を受けるようなことはなかったですね。HPVワクチン接種を通じてご家庭の不安や悩みを知ることができましたし、正しい情報を伝える方法を自分なりに工夫してみたり、学ぶことが多かったと感じています。

HPVワクチン接種を続けられたことで、小児科医としてご自身への影響はありましたか?

地域の1小児科医としての動きが、社会を変えていけるようなことに寄与できていること、SNSを通じてさまざまな場所で活躍している同じ志を持つ先生方と連携できるようになったことは、自分にとって大きな影響があったと言えます。

HPVワクチンについては本年5月に接種率が20%程度まで増加した、という報道もありましたが先生の感触としていかがでしょうか。また、どのような内容での問い合わせが増えたと感じておられますか?

4月以降増えたと感じています。問い合わせ内容は「ハガキが来たので接種したい」というシンプルな内容がほとんどですね。

HPVワクチン接種の説明
―不安をあおらず、ご家族に選択してもらうことが大切

HPVワクチンの説明はいつ、どのように行っていますか?

小学6年生以降で定期接種のある2種混合ワクチンの際に説明しています。

効果と安全性を説明し、不安があるようなら"どんな点が不安なのか"と話をしっかり聞くようにしています。「ご家族が不安だったら、16歳まで打てるから今日は打たなくていいよ。」と話し、保護者とお子さんに選択してもらうようにしています。

大切にしているのは、不安をあおらないことです。

受付時にも安心してお話してもらえるよう、電話対応用の試験を用意しています。これに合格したスタッフのみが電話受付の対応を行います。

また、接種対象者には、「キャンセルしてもいいし、当日やめてもいいですよ。」とお伝えし、「予約がいっぱいです」「キャンセルできませんよ」など、選択肢を狭めることを言わないようにしています。選択肢は接種対象者にある、と理解してもらうことが大切です。

以前、ラーメン屋さんに行ったときの話なんですが、店の前に設置された券売機での買い方がぜんぜんわからなかったんです。「豚骨」「塩」「ちぢれ」とか書いてあるけど何を選んでいいのかわからない。迷っている間に後ろに人は並んでしまうし、もう食べるのをやめようかなと思ったんですが、店員さんが来て説明してくれて「考えてみてまたあとで声かけてください」と言ってくれたんです。おかげでおいしいラーメンを食べられました。人って初めての所には不安があるし、焦らさせるといやになっちゃうんだなと思ったんです。

なので、不安な理由をしっかり聞いてあげてきちんと説明してあげること、無理強いをしないでご家族に選択してもらうことを大切にしています。

説明するとその場で接種する方もいらっしゃる?

うちは事前に予約しなくてもHPVワクチンを打てますので、その場で接種する方もいらっしゃいます。2種混合ワクチンを打ちながら「今日やっていく?」なんて話してそのまま接種されるケースもあります。

話をするタイミングもすごく重要なんですね。電話予約のときにHPVワクチンの話をしてしまうと、身構えてしまうこともあります。

ワクチン啓発については、効率的に行えるようにスタッフ内で方針を決めて対応しています。

ワクチン啓発の方針とはどのようなものでしょうか?

クリニックでは、保護者のタイプを大きく「うっかりタイプ」「悩めるタイプ」「確信犯タイプ」という3タイプに分けて、対応方針を決めています。

「うっかりタイプ」は"受けさせたいけど忘れていました"という方。このタイプには2種混合ワクチン接種時に、「同じ定期接種でHPVワクチンお忘れですよ。」という感じでお伝えするとその日に接種して帰られる方がほとんどです。

「悩めるタイプ」は、過去の報道が記憶にあって、"本当に大丈夫なんだろうか..."と不安を抱えている方。「ほかのワクチンと同じで心配ないですよ。」とお話しし、不安のある方へは内容をしっかり聞いて説明しています。このタイプの方がもっとも多いですね。

「確信犯タイプ」は"ワクチン断固拒否"という方です。このタイプは啓発効果があまりないので、無料ワクチン講座をご案内するなどの対応にとどめます。

また、園でのリーダー的な存在や、美容師さん、保育士さんといった地域のインフルエンサー的な保護者に啓発活動を行うことで接種効率が上がるため、普段から来院されるお母さん、お父さんを観察してコミュニケーションをとるようにしています。

接種者から、HPVワクチンについて質問される場合どのタイプが多いのでしょうか?

今は「定期接種のハガキが来たんですけど、以前(副作用の報道を)テレビで見たので不安です...」という「悩めるタイプ」の方が多いですね。

HPVワクチン接種時

接種時に留意されている点はどんなことですか

保護者への留意点はこれまで説明した通りですが、HPVワクチンは対象が小学6年生から高校生ということで、お子さんへの配慮も大切と考えています。中学生から高校生であれば自分で考え判断できる年齢ですので、接種者本人へもしっかりと説明します。

ワクチンの多くは乳幼児が対象で、思春期のお子さんを対象にしたワクチンはインフルエンザくらいです。このため、お子さんは接種そのものが怖いんですね。

保護者の方が接種に前向きでもお子さんが怖がっている場合もあります。そんなときは「気持ちが前向きになってからまた来てね」と話しています。「今日はやめておこうか。またおいでよ。」と言うと、しばらくして「やっぱり打ってから帰る。」と気が変わることもあります。

初めての場所では安心できず不安が強くなるお子さんでも、2回目は安心して過ごせることもありますので、焦らずに待ってあげることが大切だと考えています。

HPVワクチンは、女の子たちにいかに安心して接種してもらえるかが重要です。迷走神経反射が起こる心配もありますので、不安が強いお子さんには横になって接種してもらうなどの配慮をしています。

実際に、報道されたような痛みやけいれん、運動機能障害が起こったケースは経験されましたか?

打った後の筋肉痛はありますが、けいれんや運動機能障害はないですね。迷走神経反射を起こして倒れてしまう子はいましたが、2回目以降は寝たまま接種するようにしています。

接種されたお子さんやご家族の反応はいかがですか。

みなさん「打ってよかった!これで子宮頸がんを予防できるね」と喜んでいらっしゃいます。

HPVワクチン接種勧奨に向けて

HPVワクチン接種勧奨に向けてもっとも必要なことはどんなことだとお考えですか?

HPVワクチンに限らず、我々小児科医はここ10年ずっとワクチン啓発をしてきています。HPVワクチン啓発も大切ですが、ムンプスの定期接種化、不活化ポリオの4歳以降の追加接種の定期接種化など、ワクチン啓発においては小児科医にとって解決しないとならない課題が多いと考えています。

過去10年の経験上、やはり行政の「定期接種・積極的勧奨再開」の判断が非常に大切であり、2021年4月より定期接種のお知らせが郵送されている地域が増えてきたことが、接種率向上に影響しているのではないでしょうか。

医学的な材料は出そろっていると思うので、接種率を上げていくためには最終的には政治判断がもっとも重要だと考えています。

同時に、接種を受けるまでの壁としては①「本人が知らない、不安を持っている」②「行政が積極的に案内していない」③「医療機関で予約ができない、副反応の説明や筋肉注射に慣れていない」という3つの壁があると考えています。

現在、当地域では、保健師さんへの啓発活動や産科クリニックと連携した生後2か月からのHPVワクチン啓発、地域医療者への勉強会の開催などを実施し、①については解消しつつあります。また、行政から定期接種のお知らせが郵送されているため②も解消されました。このため、③の医療機関の対応で、お子さんとご家族を不安にさせないよう、地域で医療従事者向けの勉強会を開催し、地域のクリニックとの情報共有を行ったり、各施設の取り組みを紹介するなどの対応をしています。

これからHPVワクチン接種を実施していこう、という小児科医に小児科医として留意したほうが良い点などアドバイスがあれば教えてください。

未経験のものへ不安や心配があるのは当然だと思います。
今、当クリニックではコロナワクチン接種を行っていますが1例目は不安がありました。ですが、始めることでスタッフも慣れてきます。安心、安全に接種するための工夫もできるようになってきています。

HPVワクチンについては、医療者が必要以上に構えすぎているのではないでしょうか。このワクチンへの不安に耳を傾け説明することで、多くの接種対象者は納得されます。

今はメーカーさんや、「みんパピ!」さんなどさまざまな団体からポスターやはがきの大きさの説明用紙、母子手帳に貼るタイプのものなどいろいろな形状での資材も提供されています。これらを利用しながら説明し、保護者とお子さんが納得された上で接種していけば、批判を浴びることもありません。

未知のものについて医学的理解と知識を深めることはもちろん必要ですが、まずは第1例を始めてみること、そしてその上で経験を蓄積していくことが大切だと考えています。

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