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学会レポート・取材

(20/11/78) 第52回日本小児感染症学会総会・学術集会

ロタワクチン定期接種化と SCID 新生児スクリーニングの現状

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2020年11月7日、8日で行われた「第52回日本小児感染症学会総会・学術集会」でのシンポジウム1「ロタウイルスワクチン定期接種化」について、今回は大阪市立大学 大学院医学研究科 発達小児医学 濱崎 考史先生が発表された「ロタワクチン定期接種化と SCID 新生児スクリーニングの現状」についてレポートする。

ロタワクチン定期接種化と 重症複合型免疫不全症(SCID) 新生児スクリーニングの現状

今年より、ロタワクチンの定期接種化が開始となった。重症複合型免疫不全症(SCID)の新生児マススクリーニングも、一部の地域で行われているが、SCIDスクリーニングを実施しているエリアとそうでないエリアで、産科・小児科医療機関での混乱が見られるため、現状を解説する。

ロタワクチンの禁忌事項と予防接種問診内容の整理

まず、ロタワクチンの禁忌と、予防接種問診内容をそれぞれ以下に整理する。

ロタワクチン禁忌事項

  • ・過去にロタウイルスワクチンを接種した際に過敏症症状のあった方
  • ・先天性消化管障害を有する方
  • ・腸重積症にかかったことのある方
  • ・重症複合型免疫不全(SCID)を有する方

予防接種の問診票

  • ・これまでに免疫不全症の診断を受けていますか?
  • ・これまでに発熱・下痢・なかなか風邪が治らないことを経験したことがありますか?
  • ・近親者に先天性免疫不全症と診断されている方はいますか?

重症複合型免疫不全症(SCID)

重症複合型免疫不全症(SCID)は、細胞性免疫・液性免疫ともに障害されている病態で、生後から重症の反復乾感染、下痢、発育不全を認め、未治療例では1歳前後で死亡すると言われている。

治療は造血幹細胞移植治療により完治が期待できる。感染症を発症する前に診断・治療することで予後が大幅に改善する。

新生児マススクリーニングの流れ

新生児マススクリーニングの流れを説明する。

分娩施設にて生後4,5日に初回採血し、検査センターにろ紙を送付して検査。特に異常がなければ1か月健診で結果を伝える。異常があればすぐに連絡をして2次精査機関で診断を行う。

SCIDの場合、Tリンパ球の機能をみるTREC、液性免疫の機能をみるKRECという検査が必要になる。

免疫グロブリンの遺伝子再構成の際には環状DNAが生成されるので、乾燥ろ紙血を用いてPCRを行い、この環状DNAが検出されれば正常に免疫が発達していることがわかる。検出されない場合は免疫不全症が疑われる。

世界とアジアにおけるSCIDマススクリーニングの状況

米国では2018年現在、すべての州で新生児がTRECマススクリーニングを受けており、90%がスクリーニングで発見され、予後の向上につながっている。台湾でも、すでに約100万人の新生児がTRECスクリーニングを受けている。

日本でのSCIDスクリーニングの現状

SCIDスクリーニングは、日本では公的スクリーニングとしては実施されておらず、自治体からの補助金などで実施されているわけでもない。

多くはパイロット研究や家族からの有償検査による実施で、一部の地域(北海道、関東圏の一部、愛知県、大阪府、熊本県、宮崎県)でしか実施されていない。

産科・小児科での混乱の内容

このような状況下において、産科・小児科ではどのような混乱が起こっているのだろうか?

SCIDスクリーニングを実施している地域は、全例がスクリーニングを受けているわけではなく、未受験の方に検査を勧めるべきか、ワクチン接種は検査を行ってから実施するべきか?といった疑問から、ワクチン控えという状況が懸念されている。

一方、SCIDスクリーニングを実施していない地域では、他県では検査を行っているという情報をご家族に提供するべきか?希望された場合に自分の地域で検査は行っていないが、検査が可能なのか?といった質問がよく寄せられている。

SCID患者にロタワクチンを接種した例(米国)

実際にSCID患者にロタワクチンを接種した例は、2006年から2010年の米国での調査では9例存在する。

ワクチン接種後、多くの症例で下痢ならびにウイルスの排泄遷延があり、成長障害が進行し、精査によりSCIDと診断されている。診断後ただちに造血幹細胞移植治療を受け、数か月後にはウイルスの排泄が消失している。米国では死亡例もなかったと報告されている。

https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/nejmoa0904485

SCIDの国内例での報告

国内では、SCID患者にロタワクチンを接種した事例の報告が2例ある。2例ともワクチンを契機に診断を受け、治療を開始している。1例は造血幹細胞移植後完治、1例は残念ながら移植合併症で死亡している。

国内でのSCID発生頻度は年間15~20人ほど出生すると推定されている。これまでの全国調査での報告では、家族歴のない発症例では8割以上が生後2か月以降に診断を受けており、ロタワクチン接種前にSCIDの診断を受けるのは、スクリーニングがない状況ではほぼ不可能な状態であるということが言える。

公的なSCIDのスクリーニング実施への期待

現状、スクリーニングが行われていない日本において、ロタワクチン接種時までにSCIDと診断される可能性は低いことに気を付けるべきである。

しかし、SCIDのスクリーニング検査の有無に関係なく、問診票で問題なければロタワクチン接種をすべきであると思われる。ロタワクチン接種後に、下痢や体重増加不良などあればSICDも鑑別診断として考慮する必要があるだろう。

現在、各関連学会から、SCIDのスクリーニングが公的に行われるよう国へ要望書を提出する動きが高まっている。近いうちにSCIDのスクリーニングは公的スクリーニングとして行われることが期待される。

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