学会情報

第124回日本小児科学会学術集会

国内における子どものCOVID-19の疫学と臨床的特徴

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2021年4月16日~18日「第124回日本小児科学会学術集会」での分野別シンポジウム8「COVID-19の基礎から臨床まで」について、今回は、勝田 友博 先生(聖マリアンナ医科大学病院小児科長)から解説された①国内における子どものCOVID-19の疫学と、②小児COVID-19における新たな問題点についてレポートする。

小児COVID-19の疫学:厚労省による情報

厚労省が4/13に発表した、SARS-CoV-2 の国内の年齢階級別陽性者数によると、小児(20歳未満)は9.5%を占め、累積陽性者数は5万人に近づいている。死亡例は4月13日時点では報告されていない。COVID-19患者の全体のうちに20歳未満の小児が占める割合は、昨年の4月は3.9%だったものが、徐々に増加して2021年3月で9.4%となっている。

米国は日本の80倍の小児患者が報告されているが、米国でも小児の割合が増えているという傾向は同じく、直近では13.3%まで増加している。3月までに268名の死亡報告があり、これは13,000人弱に1例、小児の死亡例が発生していることになる。

小児COVID-19の疫学:日本小児科学会のデータベースによる情報

昨年5月、タイムリーな疫学情報を提供できないかという考えから、DBを用いた疫学研究(レジストリデータ研究)のプログラムを起ち上げた。対象は20歳未満のすべてのCOVID-19症例であり、重症度を問わず診療した際の登録をお願いしている。

参考までに「日本小児科学会 DB」と打ち検索するとヒットする。講演会当日には登録は1600人近くまで増えていた。ダッシュボードでは様々な情報を閲覧することができ、日本国内の10歳未満の7.1%、20歳未満の3.3%が登録されている。

エピカーブを確認すると、国内では一斉休校などがなされたが、結果的に第1, 2, 3波が成人同様見られた。このエピカーブの弱点には、登録まで1か月ほどかかるため、直近の統計は症例数が少なく見えてしまうことがある。エピカーブにおいて、赤で示されるのが症状ありの症例であり、黄色は無症状である。日本のクラスター調査の一環で、家族等に陽性者が見つかればPCR検査を行うため、47%が無症状として報告されている。

年齢別の入院外来の管理区分についてのグラフも閲覧できる。小児科でなく内科に行くと登録されないため、このグラフでは15歳以上の症例が少なく見えてしまうが、実際は15歳以上の症例は多い。入院と外来の管理区分では、8割がたとえ無症状でも入院していることがわかる。米国では逆の傾向であり、8割が外来管理となっている。この統計は第4, 5波で入院施設がどのくらい維持できるかという話題になったときに、軽症の小児をどこまで入院管理させるか考える際の参考になるだろう。

国内小児 COVID-19 症例における先行感染者の70%以上は家庭内感染であり、その半数は父親。まずは父親を含めた家庭内への持ち込みの予防が大事だと考えられる。もう1つ大事なのは「不明」の割合であり、小児は9割ぐらい先行感染者がわかるが、成人は約半数はわからない。小児は誰に対する予防をすればいいか明確である点が、成人との違いといえる。

小児に対する治療選択では、圧倒的多数が無治療(88.6%)で軽快しており、次に最も多いのは、アセトアミノフェンのみによる対症療法である。転帰が判明した小児の99.9%以上は軽快している。全体として予後は良いと考えられる。

以上がレジストリから示唆された結果であり、後半は新たな問題点についてとりあげる。

小児COVID-19の新たな問題点①重症化する症例

1つは、稀ではあるが重症化する症例の報告である。MIS-C(小児多系統炎症性症候群)という、COVID-19罹患から約1か月後に川崎病様の症状がみられるものがあり、場合によっては消化器症状や心筋障害などを伴い重症化する。

様々な川崎病との違いがあるが、簡単に挙げるならば、MIS-Cの方が好発年齢が高く、川崎病がアジアで多いことに対しMIS-Cはアジアでの報告が少ない。MIS-Cの実際の頻度を比べると、米国では(今年3月までに)2600人近くのMIS-Cが報告され、そのうち33例が死亡しているのに対し、韓国は(昨年末までに)3例の報告がある。

日本では正確なデータはまだ出ていないが、漏れ聞く情報によると複数のMIS-C疑いの患児が報告されている。MIS-Cに対する対策は重要であり、現在、日本小児科学会、小児感染症学会、小児リウマチ学会、小児循環器学会、日本集中治療学会とともに、コンセンサス・ステートメントを作成しており、間もなく公開されるだろう。

小児COVID-19の新たな問題点②変異ウイルスの出現

新たな問題点のもう1つとして、変異ウイルスの出現が挙げられる。

主な変異として、N501YとE484Kの2種類が挙げられる。N501Yは感染しやすさへの影響、E484Kは免疫逃避によるワクチンの効果の低下が指摘されている。最初に報告があったイギリスからの変異ウイルスに関しては N501Yのみの変異だったのが、南アフリカやブラジルからの変異ウイルスに関しては両方の変異があるといわれている。

イギリス由来変異ウイルスに関しては重症化するのではないかと成人を中心に言われているものの、小児に関する情報は限定的である。国内における変異ウイルスの流行状況をみると、約95%がイギリス由来変異ウイルスであり、残り5%がブラジル、残り1%が南アフリカ。小児がCOVID-19全体で占める割合は9.5%であるのに対し、変異ウイルスでは20%を占め、単純に考えると2倍であるため、小児は変異ウイルスにかかりやすいと考えられると誤解されやすい。

しかし、イギリスでは小児感染例のみが特に増加したという事実はない。また、限られたデータではあるが、変異ウイルス流行前後では小児COVID-19では寧ろ軽症患者が増えており、重症度が増したという事実はない。

小児COVID-19の新たな問題点③後遺症 long COVID

全体でN=5と少ないデータであるが、スウェーデンから小児における後遺症(long COVID)の存在も指摘されており、10代前後の女の子に多い傾向にある。これらを踏まえて小児科学会としては、既存の急性期調査に加え、重症症例、慢性期後遺症調査も今年の4月から開始している。

総括

総括すると、国内における子どものCOVID-19の疫学と臨床的特徴としては、圧倒的多数は家庭内で親から感染しているので、予防のためには成人家族が感染を回避することが重要であること、無症状・軽症であることが多い一方で重症症例の報告もあること、現時点では変異ウイルスの流行が直接与える影響は限定的であることが挙げられた。

Growth Ring事務局医学生スタッフコメント

勝田先生の講演から、小児科学会主導のデータベース構築は小児COVID-19の臨床的特徴に対する知見を得るために有用な試みであることが示唆されました。COVID-19全体にも言えることですが、疾患発見の初段階からデータドリブンで病態の解明が進むことは21世紀的な疾患との向き合い方であり、医学を志すものとして心くすぐられるところがあります。

一方で、このデータベースがより有益な知見を生むためには、多くの臨床医からの理解と協力が必要であり、データベース構築の重要性に関する認知をより高め、日常診療に導入しやすいような文化づくりをすることが今後重要になるでしょう。近い将来、現在はデータ数が少なく確定的な知見が得られない小児COVID-19の重症化例や後遺症についての議論が迫られるでしょう。

その際に、該当のデータベースがより多くの臨床医から協力を得られることで、1例でも多くの報告が集積され、重症化例や後遺症への対処が1日でも早くされ多くの小児の人生が救われることを期待しております。

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