学会情報

第124回日本小児科学会学術集会

ひとりひとりの小児医療者が行う成人移行支援

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2021年4月16日~18日「第124回日本小児科学会学術集会」での総合シンポジウム5 「これからの成人移行支援」において、平田陽一郎先生(北里大学医学部)から、「ひとりひとりの小児医療者が行う成人移行支援」と題して講演がなされた。

transfer(転科)とtransition(自立支援)

成人移行期医療は、子どもが成長していく時間軸を幅広くとらえ、子どもの人生全体を俯瞰するという考え方で行われている。これはある意味小児医療そのものではないだろうか。

しかし、実際の移行期医療の現場において様々な難しい側面があることは、小児科医の皆さんも日々の診療で実感されていることと思う。

成人移行期支援は①転科(transfer, 診療の場が移る)と②自立支援(transition, 意思決定の主体が保護者から本人に移る)という、2つの側面を丁寧に分けて考える必要がある。

東大病院 移行期支援外来

東大病院移行期支援外来では、医師と看護師の2名で行う。複数の視点を持つことでご本人の訴えを多面的に聞くことができると考えたためである。ご本人とご家族を別々に診察することは他の施設でも広く行われるようになってきたと思う。

患者の疾患では循環器疾患が多いが、特に制限することなくどのような患者でも対応していた。受診される年齢層は中学生から高校生が多いが、20歳を超えた方もいる。

複数のメンバーが担当しており、必ずしも毎回同じ医師・看護師が担当するわけではない。外来予約前の事前打ち合わせ、家族とご本人の個別面談、メンバー間での振り返り、次回外来に向けた申し送り、という流れで対応していた。

患者の話をよく聞き、自立支援に焦点をあてる

東大移行期支援外来では、転科ではなく自立支援に焦点をあて、以下の点を心がけていた。

  • ・必ず、患者さん1人で受診していただく。
  • ・専門知識を持たないスタッフがあえて行う。
  • ・医療者が教えるのではなく、患者自身が自分の言葉で主治医に質問できるように支援する。
  • ・過去や現在だけでなく、患者本人の将来像を見据え、それを基盤にして考える。

医療者の独りよがりや善意の押し付けではなく、患者の話を「よく聞く」ことを最も重視した外来であったと考えている。

外来に掲示していた移行期医療外来のポスターを見て、ご本人やご家族が自ら受診を希望されたこともある。

"ずっと小児科で診てほしい"と思っている患者さんやご家族ばかりではなく、"いつか小児科を離れなければならない"という不安を早く解決したいと思っている方もいらっしゃるということだと考えている。

「移行期支援外来における無作為割り付け介入試験」

移行期支援外来の結果を客観的に評価し、多くの方からの批判を受け入れ、行政への要望の1つの材料とするために、定量的なエヴィデンスを示すことが必要だと考え、東大単独で小児期発症慢性疾患を有する12~18歳を対象とした「移行期支援外来における無作為割り付け介入試験」(並行群間ランダム化比較試験)を行った。

プロトコル

介入のプロトコルは以下の通り。

  • - ランダム割り付けで介入群と対照群に分かれた後、両群が1時点目アンケートに回答し、移行期支援の概要を示したリーフレットを受け取った。
  • ― 介入群はその後、2回の移行期支援外来を受診、および、患者本人が自身の病名や治療内容、今後の注意点などを記入できる「マイヘルスパスポート」の作成を行った。
  • ― 両群ともに3か月間隔で合計3回のアンケートにWeb上で回答していただいた。

移行期支援外来において、異なる医療者間の間でできる限り均一な介入が行われるように、大まかな問診項目として①患者の背景②成人移行への認識③疾患の理解④現在の生活状況⑤将来への展望を設定した。

評価方法

評価方法は、自己管理やコミュニケーションおよび、受診行動を測る14項目の質問で構成されている「日本語版TRANSITION-Q尺度」を用い、「0点:全くしない」から「2点:いつもする」の3点法で合計得点を付けたのち、0~100点に換算した。

結果

この結果、介入群は対照群と比較して移行準備性が有意に向上し、受診後6か月後まで維持されていた。

自己管理とコミュニケーションでは介入により得点が有意に向上している一方、受診行動は全時点で有意差が認められなかった。

つまり、2回の移行期支援外来受診のみでは患者の受診行動を大きく変化させるに至らなかったと考えられる。

本研究で浮かびあがった「高リスク患者」

移行準備性の低いグループとして以下が挙げられた。

  • ・診察室での発語が少ない
  • ・複数臓器の疾患を抱えている
  • ・血液疾患患者

北里大学での経験と課題

医療圏によって、transfer の難易度はまったく異なると感じている。しかし、Transitionの必要性と方法論は概ね共通しているのではないか。コロナ禍の影響は大きいが、自立支援においては必ずしも悪い点ばかりではないと考えている。

Growth Ring事務局医学生スタッフコメント

自分自身6歳ごろから小児科にかかっており、いつ小児科から成人内科にかかるようにするべきなのか迷ったことはよく覚えています。慢性疾患をお持ちの患児の方やご家族は尚更そういった不安が大きいと思います。
いろんな病院の移行期支援の取り組みが紹介されるほど、他の病院でも参考にしやすいのではないでしょうか。

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