2021年4月16日~18日「第124回日本小児科学会学術集会」での特別企画8 「医療と教育の連携 学校教育」において、土井庄三郎先生(国立病院機構災害医療センター)から、「学校教諭とともに作る「いのちの授業」~新学習指導要領導入に合わせて~」と題して講演がなされた。
学校との関わり
私は2002年から筑波大学付属小学校の校医を18年間勤めていた。2010年からは養護教諭を対象に子どもの心臓病に関する講演を複数回行ってきた。2017年には医学教育事業助成を受けることができるようになり、学会主導で、学校教諭を対象に遠隔配信セミナーを行うこととし、2020年11月に「いのちの授業」を配信した。
小児循環器領域における学校との関わりについて述べる。学校心臓検診以外に、AED普及や設置拡大、PUSHプロジェクトなど学校教諭に心肺蘇生のための実践指導をしに行くこともあった。
学校教育の新学習指導要領の導入
小学校では昨年度、中学校では今年度、高等学校では来年度から新学習指導要領の改訂が順次行われる。
新学習指導要領の改訂のポイントは、「主体的・対話的で深い学びをすること」であり、子どもたちの知識の理解の質を向上させることが目標となっている。すなわちアクティブラーニングの実践であり、対話による意見交換により解決策を共に考えだしていくという教育の実践が求められている。
そのためには学校内にとどまらない、社会に開かれた教育課程を実践していく必要性がある。
社会に開かれた教育課程の実施に当たっては、地域の人的物的支援を活用していくことが重要と考えられている。また、特別な教科道徳を道徳科として再スタートし、いじめの問題などにも取り組もうとしている。
心臓移植をテーマにした「いのちの授業」を通して
「いのちの授業」は、学校の先生方と行っている。私の授業では次のような構成で小学5年生の子どもたちに伝えた。難しいテーマとも思われたが皆関心が深く、自分の頭で考え自分の意見を持つことができるとわかった。
- ― 心臓に関して
- ― 重症な患者の存在と社会における問題
- ― 臓器提供、臓器移植
- ― 今現在の日本での心臓移植の現状
- ― 心臓死、脳死、植物状態の違い
- ― 臓器提供の流れ
- ― 臓器提供における意思決定、意思表示の重要性
「人として大切なこと」は何か
都内の中学1年生に向けて行った「いのちの授業」では「人として大切なこと」に時間を割き、"日々の生活の中における辛さ"について生徒たちと意見交換を行った。
日々の生活の辛さは自分の希望と現実のギャップから起こるものであり、また、他人の辛さと自分の辛さを比較することはできないこと、そして他人の辛さを本当に理解することはできないこと、しかし、相手を思いやり相手の辛さを聞くことが相手にとってはうれしいこと、そして仲間や友達の存在はこのようなときに初めてありがたく感じることを伝えた。
辛さを乗り越えるための方法として、周囲の人の支え、自分の夢を持つこと、自由を知ることの3つを教えた。
子どもたちに伝えた「人として大切なこと」は以下のとおり。
- ・何が大切か自分で考える
- ・自信を持ち他人をいたわる
- ・みんなで助け合う
- ・優しい気持ちを持つ
「人として大切なこと」を伝えたあと、グループディスカッションを経て子どもたちから発表をしてもらった。みな、他人の意見を聞き自分の意見も述べ、積極的に討論に参加し、非常に有意義な時間を過ごすことができた。
児童生徒が「いのち」を考える題材として比較的適切である「心臓移植」
2020年に行った遠隔配信セミナー最終回での意見交換では、学校の児童生徒が命を考えるものとして、「いのちの授業」で題材とした心臓移植は比較的適切なのではないかという意見をいただいた。
正解が存在せず、自分で考え他人の意見を傾聴できるものである点、また、日本の国内事情を世界と比較することの大切さを教えることもできる。高校生では理科の授業で生命倫理に臓器移植が取り上げられおり、また小中学校の生徒も興味を持って聴講してくれていた。教科横断的な視点で内容を積み重ねていくこともできるように思う。
医療と教育の連携に関する社会の評価
医療と教育の連携に関する社会の変化を考える。
文部科学省の教育指導要領の改訂に加え、循環器疾患対策基本計画に基づき、東京都では福祉保健局内に対策推進協議会が発足し、学校健診とは別に学校教育への小児科医の参画を要請しようとしている。
成育基本法の中でも子どもたちへの教育推進事業がうたわれており、日本学校保健会の活動促進や移行医療支援センターの設立なども、医療と教育の連携に関係してくるのではないだろうか。
今後ますます重要視されていく、医療と教育の連携
医療と教育の連携は現在社会的ニーズとしても求められており、今後ますます重要視されていくものと思われる。中でも学校教育で求められる学校外での人的資源として、子どもたちの命と向き合いながら日常診療をしている小児科医師は適切な人的資源と考えられる。
「いのちの授業」の題材としては種々のテーマが考えられるが、心臓移植は子どもたちに主体的対話的で深い学びを提供できるテーマの1つと考える。子どもたちに「いのちの大切さ」を教えることにより、学校で大きな問題となっているいじめ、自殺や非行なども減少させうるように思われる。
Growth Ring事務局医学生スタッフコメント
心臓移植の話や、命の大切さ、人として大切なことなどは、とても大切な話でありながら日々の生活や学校で触れる機会はほとんどないので、今回のアクティブラーニングを通して生徒たちに伝えるのはとても有意義な授業になったのではないかと思います。また、医療と教育の連携という、普段は中々考える機会がないことについても、興味深いと感じました。