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学会レポート・取材

第124回日本小児科学会学術集会

発達障害を持つ子どもを地域で育てるシステムづくり
~医療と教育の連携を中心に~

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取材日:

2021年4月16日~18日「第124回日本小児科学会学術集会」での特別企画8「医療と教育の連携 学校教育」において、小林 穂高先生(名張市立病院小児科)から、「発達障害を持つ子どもを地域で育てるシステムづくり~医療と教育の連携を中心に~」と題して名張市における多職種間、特に医療と教育の連携における工夫について講演がなされた。

発達障害児への切れ目ない支援のために

発達障害の子どもに対しては、医師と学校の先生の連携だけでなく、乳幼児期の情報を持っている保健師や保育所・幼稚園の先生、療育、そして市町村の福祉保健や児童相談所など多職種との連携が必要である。

しかし、多職種の連携は行政が縦割りであるため非常に難しい。多職種間の壁を無くし年齢や制度の切れ目で支援を途切れさせないことが重要である。

名張市における子育て支援 名張版ネウボラと、子ども発達支援センター

名張市における子育て支援、名張版ネウボラと子ども発達支援センターについて説明する。

亀井利克名張市長は2003年に「人生の本舞台は施設でもない。病院でもない。学校でもない。それは社会生活・社会参加にある。障がいの有無に関わらず、すべての市民が社会参加できるためにはソーシャルキャピタルを醸成させる必要がある。」と宣言した。

これを受けて、名張市は小児保健、成人保健ともに多職種連携を推進しており、子育て支援においては「産み育てるにやさしいまち なばり」として、妊娠出産から18歳まで途切れのない支援を実現するため取り組んでいる。

名張市の小児発達支援の概要は以下の通り。

  • ・2006年 まちの保健室を設置
  • ・2011年 関西医科大学に名張市寄付講座を設置し、市立病院で発達障害の外来を開始
  • ・2012年 名張市子ども発達支援センターを開設、教育専門員を配置し教育との連携システムを開始。5歳児健診を開始
  • ・2015年 名張版ネウボラをスタート

名張版ネウボラの概要

子育て支援のキーパーソンとして、市内15か所の公民館内にある「まちの保健室」に「まちの保健師(まちほさん)」を相談窓口として配置している。保護者は妊娠から子育て・成人保健・親の介護まで、いつもの場所でいつもの"まちほさん"にワンストップで相談できるようになった。

"まちほさん"は母子保健コーディネーターを通じて困難例を専門機関につなぐことで、より専門的な子育て支援が可能となり、発達障害の早期対応・虐待予防などが可能になった。

この名張晩ネウボラは高い評価をいただき、厚生労働省の「第6回健康寿命をのばそう!」アワードにて厚生労働大臣 自治体部門 優秀賞を受賞した。

第6回健康寿命をのばそう!アワードhttps://www.smartlife.mhlw.go.jp/award/06/c

小児発達外来の工夫

演者が勤務する医院では、個人情報を守りつつ多職種に対してオープンな診察室を心掛けている。初診時と難しいケースは、子ども発達支援センターの保健師が診察室に同席している。この工夫により子どもや家族の情報を把握した上で初診に入る。

医師も子ども発達支援センターに月2回出張し、保健師や教育専門員、地域の教員と情報交換やケース会議を実施している。

また、患者さんの同意があれば児童相談所や家庭児童相談所の職員、教員などの同席をOKとしている。

多職種連携の要である、名張市子ども発達支援センター

多職種連携の要である名張市子ども発達支援センターについて説明する。

職員は、保健師・保育士・臨床心理士のほか教育専門員と呼ばれる教員が2名。保健師と教育専門員が連携のキーパーソンなので後述する。

業務内容としては、子育て相談などの家族支援・保健事業として5歳児健診を行い、多職種連携の中心組織となっている。

保健師・保育士・教員(教育専門員)・心理士らが同じ部屋で机を並べて仕事をすることで、互いの職種の文化の違いを肌で感じ理解できるようになっている。

秘密道具を使って、職種間の壁を無くす

発達や行動が気になる子どもに対して壁がなく途切れない支援を行うために、行政は何ができるだろうか。

ここで、メタファーとして「ドラえもん」の秘密道具を登場させたい。

「通り抜けフープ」これがあると職種間の壁も通り抜けることができる。
「ほんやくコンニャク」これがあると医療と教育の言葉の違いを翻訳することができる。

実際に秘密道具はないが、名張市は職種間の壁を行き来しやすくするために3つの工夫をしている。

  1. 子ども発達支援センターという「システム」
  2. 5歳児検診と支援の移行シートを用いた、就学に向けた「事業」
  3. 子ども発達支援センターの保健師と教育専門員という「キーパーソン」に「通り抜けフープ」と「ほんやくコンニャク」という道具の変わりに「権限」を持たせたこと

5歳児健診で関係機関や制度の切れ目をつなぐ

次に5歳児健診で関係機関や制度の切れ目をつなぐ子ども発達支援センターの保健師について説明する。センターの保健師は、子ども発達支援センターと市役所の福祉子ども部健康子育て支援室を兼任している。

このことによって、母子保健、ネウボラ、要保護児童対策地域協議会、成人保健とのパイプを持ちながら子育て支援に関わることが可能になっている。

就学前から就学後を途切れなく支援するための5歳児健診

名張市では、全5歳児(年中児)を対象に、就学に向けた準備を行うことを目的として保健師が中心になって5歳児健診を実施している。

判定は、健康(異常がない)・要経過観察・治療観察中(発達面ですでに医療機関にかかっている方)の3段階で、「要経過観察」は約20%の子どもが該当し、小学校就学までの1年余りの間、園での支援や配慮を受けられる。2次健診となった方は病院で演者が診察を担当し、診断や治療を行っている。

5歳児健診で要経過観察となった子どものうち約2割は、ほとんどが小学校入学後に特別支援学級ではなく通常学級に在籍する。

そこで、卒園までの期間に行った具体的な支援の様子を「支援の移行シート」にまとめ、小学校へ引継ぎを行うことで就学後の支援の途切れを防ぐ取り組みを行っている。

「支援の移行シート」には園での様子や保護者の願い、子どもの苦手な場面にこうすればうまくいった、といった情報が記載され、園の先生と保護者とが共同で作るサポートブック的なものになっている。

平成27年度に「支援の移行シート」を作成し卒園した子ども113名について、1年生の担任に「役に立ったかどうか」をアンケートで調査した結果、「役に立った」が59%、「まあ役に立った」が29%、合わせて88%の担任が「役に立った」と回答していた。

一方で、「支援の移行シート」を用いた子どもたちの約4割は3歳児健診においては異常なしと判定されていた。5歳児健診はこの4割の子どもたちにとって小学校生活を円滑にスタートするために役に立っていると考えられる。

医療と教育の翻訳者である教育専門員

教育専門員は特別支援教育の経験が豊富な教員であり、特定の学校には所属せず子ども発達支援センターの職員として市内すべての小中学校を2人で担当している。

業務内容は、学校支援として学校巡回、子どもの行動観察、教員への助言、また、センターで家族からの相談を受け、必要に応じて外来につなぐ役割も担う。5歳児健診の実施にも参加し、就学前から子どもの支援に助言をしている。

教育専門員の配置により、医師と教育専門員で情報共有がしやすくなったこと、医師は教育専門員を通じて学校現場での子どもの支援をお願いできるようになったこと、また学校の先生方は教育専門員を通じて医療につながりやすくなった、という利点が挙げられる。

医師の役割は、子どもや多職種の方に対して必要な時期にそばにいること

名張市においては、子どものライフステージの全年齢において、ネウボラ、就学前の5歳児健診、移行期の「支援の移行シート」、就学後の学校訪問等の事業を行っている。

保健師、心理士、医師はすべての年齢で関わるが、保育士は就学後も学校に赴き、教育専門員は5歳児健診から関わっている。

それぞれが本来の専門領域を少しはみ出してのりしろを作っている。連携のキーパーソンである保健師・教員・保育士いずれも、どの地域にもいる職種だというところが重要である。

医師の役割は子どもや多職種の方に対して必要な時期にそばにいることだと考えている。

行政による子ども支援を実現させるためには、多職種間の行き来のしやすさと途切れない支援であり、キーパーソンである保健師と教育専門員に、各職種間をつなぎ行き来できる権限を持たせることが大切だと考えている。

Growth Ring事務局医学生スタッフコメント

「まちの保健室」設置から10年でこれほどの仕組みができあがったことに感銘を受けました。"いつもの場所でいつものまちほさんに相談できる"という点も安心感があると思います。実際に「まちの保健室」を利用された方のお話なども聞きたくなりました。

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