学会情報

第53回日本小児感染症学会総会・学術集会

病院の立場でできること、やるべきこと

掲載日:
取材日:

2021年10月9日、10日に開催された「第53回 日本小児感染症学会総会・学術集会」での「シンポジウム5 ワクチン忌避にどう立ち向かうか」より、今回は国立成育医療研究センター 感染症科 庄司 健介先生が発表された「病院の立場でできること、やるべきこと」をレポートする。

ワクチン忌避に対応する体制の構築

保護者がワクチン忌避となる理由はさまざまであり、安全性や必要性に関する不安だけでなく、選択の自由として指図されたくない、リスクの方が上回ると考えるケースもある。ワクチン忌避に至った要因が個々に異なるため、画一的な対応では良いアウトカムが得られないと考えられる。しかし、救急外来や一般外来でワクチンに関する説明に十分な時間を取るのは難しい。

国立成育医療研究センターでは、「救急外来においてワクチン接種が進んでいない子供を時にみかけるが、ゆっくり話す時間がない」という医師からの相談をきっかけに、2018年よりワクチン忌避に対応する専門の外来「ワクチン説明外来」を開設している。

保護者は小児科医からの情報を求めている

過去の報告では、ワクチン接種を拒否していた保護者がワクチン接種を受け入れた要因として、小児科医からの情報提供が重要であったとされていた。また、3年前の小児感染症学会では、ワクチン接種群とワクチン拒否群を比較したところ、特に拒否群は情報不足だと考える傾向にあり、さらに、どちらのグループも小児科医からの情報を求めているといった発表があった。いずれにしても、保護者は小児科医からのワクチンに関する情報を求めていると考えられる。

「ワクチン説明外来」の流れ

救急外来の担当医は、どのような理由で受診したとしてもワクチン接種歴をチェックし、接種の遅れが見られると判断した場合、ワクチン説明外来を紹介するとともにその場で予約を促す。その際、ワクチン未接種となった理由を簡単に聞き取り、保護者が最も懸念している理由をテンプレートに記載するという体制を取っている。

後日、専門外来であるワクチン説明外来を受診いただき、小児感染症学会暫定指導医である庄司先生が作成した専用の説明スライドを用いて、15~20分程度、一般的な事項を説明する。事前の聞き取りから、既に保護者が不安に思う点をある程度把握できているため、個々のニーズに合わせて使用するスライドを調整している。最も大切なのは、その後の質疑応答の時間を十分に取ることである。おおむね30分から1時間程度の外来時間になることが多いが、熱心な保護者も多く、2時間を超えることもある。

最後に日本小児科学会が作成した「知っておきたいわくちん情報(日本版Vaccine information statement)」を資料として渡している。

ワクチン忌避の代表的な理由とその対応

保護者が抱える不安として、「(予防接種に)効果があるのか」、「そもそも稀な病気なので接種しなくてもよいのではないか」、「自然罹患の方が良い免疫がつくのではないか」、「副作用が怖い」といった意見が多く見られる。ワクチン説明外来を利用する保護者だけでなく、みんなが悩んでいるという姿勢と共感を示しながら、納得してもらえるよう個々への対応を行っている。以下に具体例を述べる。

効果に疑問を持つ保護者への説明例

効果に疑問を持つ保護者に対しては、まず、REDBOOK® 2021-2024 Report of the Committee on Infectious Diseases 32nd Edition (American Academy of Pediatrics)にも掲載されているような、ワクチン普及前後の患者数の減少について説明を行っている。予防接種に懐疑的な保護者のなかには「(こうした結果は)ワクチンの影響ではなく、衛生環境や栄養状態が良くなったからなど、他の要因によるものではないか」という疑問を持つ人もいる。そうした場合には、「もちろんワクチンだけとはいえないが、患者数の減少にワクチンが大きく寄与していることは医学的に間違いない事実といわれている」といった話もしている。

例として使うことが多いのは、ヒブワクチンの効果を視覚化したスライドである。アメリカのデータだが、ワクチン導入後に患者数が急激に減少していることを示すものであり、短期間で医療環境や栄養状態が大きく改善したとは考えにくいため、ワクチンの純粋な効果であると考えられるのではないかと理解を促している。

実際に医師としての体験談として、「以前は小児科医としてヒブ髄膜炎の症例を多く見て、心を痛めていたが、予防接種の導入後はほとんどなくなった。今は鑑別診断にも上がらなくなってきている」といった話をすることもある。

自然罹患を望む保護者への説明例

自然罹患の方が良い免疫がつくと考える保護者へは、自然罹患後に問題となりやすいムンプス難聴を例に挙げている。

日本耳鼻咽喉科学会が2015年~2016年にかけて行った調査では、自然罹患者の少なくとも348人にムンプス難聴が発生し、約300人に後遺症が残っているという結果となった。自然罹患でも治癒後の経過に問題がない場合が大半であることは間違いないが、なかにはこうした合併症を発症し、後遺症が出る可能性がある旨を伝えている。

自閉症の発症リスクを不安視する保護者への説明例

ワクチン接種による自閉症のリスクを懸念する保護者には、ワクチン接種群と未接種群の自閉症発症率を比較したデータがあることを伝え、世界中で行われた多くの研究結果を見ても、ワクチンと自閉症に関連性がないことを伝えている。

しかし、海外のデータを挙げるだけでは、日本とは異なる条件として納得しない保護者もいるため、国内のMMRワクチン接種率が減少した時期に、自閉症の報告はむしろ増えたという報告があることも伝えている。

デメリットについての説明

ワクチン接種について特に迷いや不安がない保護者に対しては、デメリットを極端に強調する必要はないだろう。しかし、ワクチン説明外来を利用する人は、ワクチン反対派、賛成派、両方の情報を集める人が多く、デメリットに関する情報も求めており、メリットばかりを伝えると防御的な雰囲気になってしまう。そのため、デメリットの話もしっかり行っている。

デメリットについては、まず「有害事象と副反応の違い」を説明している。ワクチン接種後に発生した事象のすべてが、ワクチンの影響だと考えがちである。しかし、関係のないものが多く含まれていることを伝えながら、実際の関連性については、ワクチン接種者と未接種者を比較し、発生率に差があるかどうかを確認したうえで、判断されていると伝えている。

接種した部位が腫れる、痛みが出る、発熱するといった点は、予防接種のデメリットであることに間違いない。しかし、こうした症状は軽く、自然回復するものであり、それ以上にワクチンによって病気を防ぐメリットの方がはるかに大きいことも伝えている。また、問題となる重篤な症例、いわゆる入院が必要になるレベルの副反応の発生率については、日本小児科学会の資料を提示して具体的な数字を示すことが多い。

ご自身の経験や家族の例を理解の一助に

実際のところ、ワクチンのリスクとベネフィットの判断は難しい面もあるため、庄司先生はご自身のご家族の例も示している。感染症を専門として10年以上の経験をふまえ、自身の子供の母子手帳を見せながら、「今の日本で導入されている予防接種は利益が十分高いと判断し、自分の子供はすべて接種している」と伝えると、「先生自身がどうしているのかを知れて、少し安心した」といった言葉をもらうこともある。

ワクチン接種後に何かあると、それがワクチンと関係あるなしに関わらず目立ってしまうのに対して、ワクチンの効果は非常に見えにくいものである。しかし、実際にはワクチンによって病気を防いだという多くの例があることを伝えながら、ワクチンの必要性を説明している。

国立成育医療研究センターの救急外来におけるワクチン忌避の割合

成育医療研究センターの救急外来は、平時において年間3万人程度の受診がある。ワクチン忌避への対応は2018年からスタートし、その1年半後にデータのまとめを行った。その結果、期間中、6歳未満の受診者は3万6千人程度であり、そのうちワクチン忌避が確認されたのは58名で、全体の0.16%であった。海外においては、人口比で数%になるという報告もあるが、患者背景やチェックの仕方が異なっていることもあり、一概に比較するのは難しい。ただ、国内の小児救急外来では、少なくともこの程度の割合で存在するといえる。

ワクチン忌避と判断された58名のうち、完全に未接種だった割合が7割程度、一部は接種したものの、何らかの理由で止まっている割合が3割程度だった。

「ワクチン説明外来」受診後の状況

ワクチン忌避になった理由としては、副反応に不安を持つ人が多く、およそ9割を占めている。救急外来で「小児科医の話を聞いてみたいか?」と対象者に問うと、6割強が聞いてみたいと回答する。しかし、実際にはワクチン忌避と判断した58名のうち、相談外来の利用に至ったのは18名で約3割だった。その場で受診を促すと一定数の希望者が見られるため、救急外来はワクチン忌避者を発見する有用な場所の1つだと考える。

ワクチン説明外来を利用する人は、ある程度前向きな意思を持つ層である。大きなバイアスがかかっていることは承知のうえだが、外来終了後に感想を聞くと、受診者の18名すべて「話を聞けてよかった」「前向きになった」と回答した。

ただし、信念として未接種を決めているケースでは、そもそもワクチン説明外来を希望しない。また、その場では前向きな回答をしても、実際に接種に至ったかまでは確認できないのがこの検討のリミテーション(限界)であると認識している。

上述した調査以降も症例数は増えており、現時点で入院患者を含めて81例。そのうち、36例がワクチン説明外来を受診した。そのなかで、36例中34例に「前向きになった」という回答を得た。しかし、これだけ時間をかけて説明しても、難しいケースがあるのも事実である。

ワクチン接種に関する保護者の声

ワクチン説明外来において、保護者から聞いた生の声を挙げると「ワクチンについて聞く機会が少ない」、「情報が不足している」といった回答が多い印象である。なかには、「周りに、ワクチン説明外来の存在を教えたい」と話す保護者もあり、励みとなった。

また、「過去に"何も考えずにとにかく接種すればよい"という説明を受けたことがあり、納得がいかなかった」とする声や、保育園や学校で予防接種を強要されるように感じるやり取りがあり、「脅迫のような言葉をかけられたと感じ、傷ついた」とする例もあった。こうした背景を見ても、ワクチンに関する説明を行う際には注意する必要があると感じる。

そのほか「推進派・反対派の意見が違うので、どちらを信じたらよいかわからない」、「(水痘やおたふく風邪の例を受けて)重症になることがあるとは全く知らなかった」といった話が出ることもあった。

説明時の態度として大事なこと

ワクチンに関する説明を行う際には、子供を第一に考えている保護者への共感を見せることが大切である。保護者は、子供のことを真剣に考えた結果、現在の選択に至っていることを理解することが重要といえる。

ワクチン忌避の理由によって説明内容も変わるため、個々が抱える不安点を聞き出したうえで対応する必要がある。説得したり、強要したりするような態度では、うまくいかない。少なくとも最初は、「情報を提供することで、判断材料にしてほしい」といった姿勢で取り組むと、成果につながりやすいと感じている。デメリットも隠さずに伝え、そのうえでメリットが上回ることを納得してもらうスタンスが望ましい。また、どうしても拒否の態度を示す保護者については、深追いしない方がよいのではないかと考えている。実際に4時間話しても、成果が出なかったこともある。

納得してもらうためには、漠然とした不安に対しては丁寧に説明し、不安解消につなげるのがポイントだと考える。予防接種に効果がないと感じている層には、上述したヒブワクチンやムンプス難聴、水痘ワクチンの例などを活用するとよい。自然罹患を望む層には、ムンプス難聴やヒブ髄膜炎の事例を挙げることで、自然罹患時に重篤な合併症が起こることもあるのだということがわかると心に響きやすい。実際に発熱などで救急を受診したタイミングは、ワクチンの必要性を伝える良い機会といえる。

介入ターゲットは中間層

問題なく接種を進める層については介入の必要がなく、逆に、信念として未接種を決めている層には対応が難しい。そのため、中間層にあたる「接種するかどうかを迷っている層」を発見し、いかに介入につなげるかが重要である。

コロナ禍において、ワクチン接種率が世界中で低下しているといった話も出ており、今後、ワクチン忌避への対応はますます重要性が増してくると考える。

総括

救急外来は、ワクチン忌避を発見する場所として有効といえる。ただし、時間をかけて説明する場所を、それぞれの地域で確保することが重要である。また、介入後に接種行動につながったかどうかを確認できる仕組み作りが今後の課題となる。

PAGETOP

「GrowthRing」は、日本国内の医療関係者(医師、薬剤師、看護師等)を対象に、小児医療に役立つ情報をあらゆる視点から集めて提供しています。国外の医療関係者、一般の方に対する情報提供を目的としたものではありませんのでご了承ください。

このサイトのご利用に際しましては、「GrowthRing」のご利用条件が適用されます。

医療関係者の方は、一部コンテンツをご覧いただけます。

医療関係者ではない方