Report

学会レポート・取材

第123回日本小児科学会学術集会

DOHaD(Developmental Origins of Health and Disease)と臨床的問題

掲載日:

『母体低栄養モデルを用いた腎臓における DOHaD 研究』

粟津 緑先生(元 慶應義塾大学小児科)から、母体低栄養が腎臓に及ぼす影響と、DNAメチル化の腎発生における必要性について解説がなされた。

ネフロン数減少

従来は、母体低蛋白ラットにおいて後腎間葉細胞でアポトーシスが起こることによりネフロン数が減少すると推測されていた(Welhom, Kidney Int. 2002)。尿債芽分岐数がネフロン数を決める重要な因子であることから、母体低栄養ラットを用いて尿管芽分岐を検討したところ、母体低栄養では尿管芽分岐が抑制されること、ネフロン形成は対照群と同じ時期に停止し結果的に20%減少していたことが明らかとなり、母体低栄養によるネフロン数減少の一因は尿管芽分岐の減少であると考えられる(Awazu, Pediatr Res. 2015)。なお、これらの結果は矛盾しないことが示されている(Cebrian, Cell Rep. 2014)。

腎線維化

さらに、母体低栄養は片側尿管結紮により尿細管壊死、線維化を増悪させたが、その原因として酸化ストレスの指標であるNOの亢進が考えられることを示した研究結果(Awazu, PLoS One. 2019)が紹介された。

DNAメチル化

DOHaDの原因のひとつとしてエピジェネティクス機構がある。そのうちのDNAメチル化に関する検討が紹介された。母体低栄養ラットでは細胞分裂時のDNAメチル化維持に重要である DNMT1 の発現が低下しており、これは葉酸補給により改善され得ることが示唆された(Awazu, PLoS One. 2020)。

ノックアウトマウスを用いた研究

ノックアウトマウスを用いた研究では、マウスにおいても母体低栄養は尿管芽分岐を抑制すること、母体低栄養胎仔における尿管芽分岐抑制は caspase 3 の活性低下による細胞運動抑制による可能性があることが示された。今後のノックアウトマウスを用いたDOHaD研究が期待される。

最後に、母体低栄養モデルは腎臓におけるDOHaD研究に有用であることを述べ、全体の結論とした。

Growth Ring事務局医学生スタッフコメント

今回の講演では、葉酸補充による DOHaD による腎障害予防の可能性、また、生物モデルとしてのノックアウトマウスの確立による更なる研究加速の可能性が示唆された。

DOHaD予防のための産婦の栄養状態マネジメントや必要な介入ガイドラインの確立、母体低栄養と考えられる児のスクリーニングとフォローアップなどに、これらの観点が広く活用されるのも遠くないに違いない。

『出生前後の栄養・ストレス環境が出生後の生殖機能に及ぼす長期的影響』

岩佐 武先生(徳島大学病院周産母子センター)からは、母体低栄養が児の生殖行動や機能に及ぼす影響について、産婦人科の観点から発表が行われた。

DOHaDの概念

本邦では女性におけるやせの割合が高く、とくに生殖年代の女性における栄養不足は本人および次世代の健康状態に及ぼす影響が危惧されている。

DOHaDに関わる疾患は心臓血管疾患、2型糖尿病、肥満など複数が報告されており、この原因として、出生前後の環境が成長後の疾患発症リスクに影響を及ぼすためと考えられている。また、大脳視床下部がDOHaDの重要な役割を占めていることも分かっている。

生殖領域におけるDOHaDの関係についてヒトを中心に報告されてきたが、その機序について明らかにされたものはなかった。そこで、動物実験を用いて胎児期の低栄養が生殖機能に及ぼす長期的影響について検討を行うことにした。

胎児期の低栄養が生殖機能に及ぼす長期的影響

2003年に発見されたkisspeptin は視床下部で作用する生殖に必須の物質である。高い感受性で低栄養時に低下するという性質を持ち、kisspeptin の受容体 (GPR54) をノックアウトしたマウスでは GnRH 分泌が抑制され生殖機能が低下することが示されている。

このkisspeptinに着目して胎児期の低栄養が出生後の性成熟に及ぼす影響を検討したところ、母体低栄養ラットの場合、kisspeptin の発現低下と膣開口の遅れが起こることが明らかとなった。さらに、脳に kisspeptin を長期的に補充することで膣開口の遅れを改善できることが示唆された。

また、同様のモデルで胎児期の低栄養が成熟後の生殖行動に及ぼす影響を検討したところ、母体低栄養において求交尾では有意差が認められなかったが、異性に対する受容行動は低下すること、母体低栄養のメスに対してオスはあまり求交尾行動をしなかったこと等が示された。これらの結果から、胎児期の低栄養は出生後長期にわたって生殖機能を低下させること、生殖機能の低下には視床下部kisspeptinやプロゲステロン受容体などの作用の変化が関わること、胎児期の低栄養が生殖機能に及ぼす長期的影響には性差が存在すること、などが明らかになった

まとめ

胎児期の低栄養、すなわち妊娠母体の低栄養が、出生後長期にわたって性成熟、性周期、生殖行動などの生殖機能を抑制することが判明した。また、これらの変化に複数の視床下部因子が関わる可能性が示唆された。次世代の健康状態を保つため、生殖世代の女性に対して適切な栄養・体重管理の重要性を喚起することが必要と考えられた。

Growth Ring事務局医学生スタッフコメント

母体低栄養が一因と考えられる生殖機能障害の治療につながりうる研究といえます。

行動研究はその必然性や、直接的な因果関係を示すのが困難な領域ではありますが、今後研究が進み kisspeptin等の分子レベルでの考察との結節点が見つかるかと思うと、大変興味深い領域です。

講演を聞く前の私にとってのDOHaD は、「学校の授業でもそれほど深く扱わない、フワフワとした概念」という理解でした。しかし、まだ社会的にも学問的にも理解が進んでない点もありながら、今回様々な専門家の方がいろいろな視点で学問的な視野を切り開いている様を目の当たりにして、DOHaD は大変"アツい"領域だという印象に塗り替わりました。今後の DOHaD 研究の進展に、期待しております。

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