コロナ禍の小児の精神衛生に成人のワクチン接種状況が影響か
「JAMA Psychiatry」より
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界的に大流行した初期の1年間では、小児の精神的健康状態の経時変化には、成人へのCOVID-19ワクチン接種状況をはじめとするさまざまな社会経済的要因が影響を与えたとする米国の観察研究の結果が、「JAMA Psychiatry」6月1日号に掲載された。
米ニューヨーク・プレスビテリアン病院のYunyu Xiao氏らは、前向き縦断コホート研究であるABCD(Adolescent Brain Cognitive Development)研究により、米国内17州21施設で、2020年5月16日から2021年3月2日の間に計6回の調査を実施した。最終的に対象となった小児8,493人(平均年齢9.93歳、女児48%)のデータを用い、COVID-19パンデミック初期における小児の精神的健康状態の経時変化に対して、成人のワクチン接種状況をはじめとするさまざまな健康の社会的決定要因(Social Determinants of Health)がどのように関連しているのかを分析した。
精神的健康状態の指標には、「心理的ストレス」、「COVID-19に関する心配」、米国立衛生研究所のToolbox emotion batteryを用いて評価した「悲哀感」および「肯定的感情」を用いた。健康の社会的決定要因には、世帯収入や親の配偶状況、居住地域の地理的剥奪指標(Area Deprivation Index;ADI)、食料不安、親の失業状況、医療アクセス状況、成人のワクチン接種状況などが含まれた。解析にはマルチレベル一般化線形混合モデルを用いた。
その結果、小児の「心理的ストレス」と「COVID-19に関する心配」は、2020年12月13日の成人のワクチン接種開始後に単調な減少が始まった。「悲哀感」は、第1回調査(2020年5月22日~6月27日)で増加が見られ、2020年の夏には減少し、秋に再び増加した後、成人のワクチン接種開始直前の12月にピークを迎え、その後減少した。
年少児、男児、白人、既婚の親と同居している小児と比べて12~15歳の年長児(β=0.26、P<0.001)、女児(β=0.75、P<0.001)、ヒスパニック系(β=0.24、P=0.04)、別居している親と同居(β=0.50、P=0.04)、医療アクセスが中断(β=0.19、P=0.04)、経済的困窮地域に居住(β=0.28、P=0.02)、ソーシャルディスタンスが取れないフルタイム労働者の多い地域に居住(β=1.35、P=0.04)、予防接種を完了した成人が少ない州に居住(β=0.59、P=0.007)している小児では「心理的ストレス」が高かった。
「心配」が高かったのは、アジア系(β=0.22、P=0.003)、黒人(β=0.33、P<0.001)、その他の多民族系(β=0.17、P<0.001)などで、医療アクセスが中断したり、精神的なケアが行き届かない小児も同様に高かった。「悲哀感」が大きかったのは、必要な食品を購入できない家庭で暮らす小児であった(β=1.50、P=0.04)。
さらに、成人のワクチン接種完了率が低い州に居住することは、「心理的ストレス」の増加(β=0.59、P=0.007)、悲哀感の増加(β=2.34、P=0.01)、肯定的感情の減退(β=-1.90、P=0.02)と関連した。成人がワクチン接種の対象となる時期が遅れた州に居住することは、COVID-19関連の心配の増加(β=0.16、P=0.03)と肯定的感情の減退(β=-1.78、P=0.03)と関連した。
以上の結果を踏まえ著者らは、「コロナ禍における小児のメンタルヘルスを守るためには、食料、医療サービスの確保、親の雇用を守ること、成人のワクチン接種を推進することなど、個人レベルおよび社会構造レベルの健康決定要因にアプローチする多面的な政策立案が不可欠だ」と述べている。
- 書誌事項
Association of Social Determinants of Health and Vaccinations With Child Mental Health During the COVID-19 Pandemic in the US.
Xiao Y, et al. JAMA Psychiatry. Published online April 27, 2022. doi: 10.1001/jamapsychiatry.2022.0818