学会情報

第124回日本小児科学会学術集会

これからの小児一次医療の在り方を考える

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2021年4月16日~18日「第124回日本小児科学会学術集会」での特別企画2「三委員会合同シンポジウム 新時代の小児科医とその育成」において、日本小児科医会 総務理事、町田市医師会 会長、東京小児科医会 副会長である林泉彦先生(はやしクリニック)が講演された「これからの小児一次医療の在り方を考える」についてレポートする。

予想以上に減少している子どもの数

子どもの数は2017年時点の予想よりはるかに速く減少している。新型コロナウイルスの影響で10年分ぐらい早まるという予想がされている。

小児科診療所の収入の変化

昨年5月の収入は前年比で3割~5割、大きくは8割減という甚大な影響。外来のレセプト数は昨年5月に大幅に落ち込み、少しずつ回復傾向を見せているがまだ少ない状況。慢性疾患の割合は高止まりし、急性期疾患が減少。小児科診療所外来の疾患構造は大きく変化していると言える。

そのため我々小児科医は、時代のニーズにマッチして、子ども、家族、地域社会の満足度が高く、小児科医のidentityと生活が確保される新しい小児一次医療を考え直さなければならない。

将来の小児科医の在り方

日本小児科学会の「将来の小児科医を考える委員会」が打ち出している「将来の小児科医の在り方」でも、コミュニティ小児医療というものを強く打ち出している。

これまでのdisease orientedではなくhealth oriented な小児医療に取り組んでいかければならない。地域総合小児医療(community pediatrics)がキーワードである。

地域での小児一次医療の在り方の実例:町田市CAPS合同会議

以前は縦割り行政でハイリスク児の情報などが小児科医に入ってこなかった。
地区医師会が中心となって病院、小児科医、行政などの情報交換の場を設けることで、「見守りの感度」が格段に向上したといえる。

町田市の未就学児発達支援における、医療から療育への有効な引継ぎシステムの構築と標準化

発達障害が疑われる児は町田市でも多く、発達センター・教育センターでのスクリーニングが追い付いていない。このため、市内の小児科専門医が同じ診断ツールを用いてスクリーニングを行おうという活動を実施。20名ほどの小児科専門医・開業医が標準化したスクリーニングを学び、実施し、療育に必要な意見書を作成する。公的あるいは民間での療育開始後も定期的に外来でフォローアップし、支援を継続しようという取り組みである。

「これからの小児科医は『小児科ネウボラ』を目指す」

フィンランドのネウボラでは出産前から就学まで、ひとりの専門職が家族全体の成長をサポートする。虐待の予防などでも大きな効果を上げている。

小児科医がワンストップで医療・保健・福祉などの相談に乗り、サービスを提供するという地域総合小児医療の実践そのもの。切れ目のない個別健診、育児支援、ヘルススーパービジョンがこれからの小児一次医療のポイントと考えている。

日本小児科医会では、まずは2か月ワクチンデビュー時に、何でも相談できる小児科医の存在を保護者に知ってもらうためのツールを現在開発中である。

しかし、小児科医は思春期の子どもをbiopsychosocialに診る教育は受けておらず苦手ではないだろうか。

日本小児科医会は、年2回4日間の研修会を開催し、継続して研修することにより、子どもの心の問題に対応できる小児科医を育成し認定する制度を平成11年から立ち上げている。

さらに実践的な対応力を磨く、「子どもの心」相談医カウンセリング実習や、思春期の臨床講習会も開催している。現在全国で1,200名ほどの認定がされている。

さらに、就学時以降思春期も含めた小児科外来での切れ目のない個別健康相談、健診への支援の取り組みが必要であることから、日本小児科医会乳幼児学校保健委員会では「日本版 Bright Futures『問診から進める個別健診ガイドブック~小学生から思春期までのバイオサイコソーシャルアプローチ』(仮)」を2021年9月に公開予定である。

これからの地域総合小児医療

日本小児科医会は厚労科研などで、日本小児科学会、日本小児保健協会と協力して乳児まで思春期まで子どもたちを見守る体制を目指している。

※身体的・精神的・社会的(biopsychosocial)に健やかな子どもの発育を促すための切れ目のない保健・医療体制提供のための研究」班(https://biopsychosocial.jp/

これからの小児一次医療に求められる、地域総合小児医療、community pediatricsはどのようなものか?

日本小児科医会は、平成26年から地域総合小児医療認定制度を立ち上げた。

地域における小児医療を総合的に診る力を持つ小児科医を認定する制度である。研修・評価の要件は地域貢献活動である。そのため、地域総合小児医療認定医はcommunity pediatrics の実践者といえる。

地域総合医療認定医が社会から広く認知されることが小児科医の社会的アイデンティティを高める可能性を秘めていると考えている。より多くの小児科医に地域総合小児医療認定医になっていただければ、と考えている。

※地域総合小児医療認定医制度について https://www.jpa-web.org/blog/tiikisogo/a66

これからの小児科医のために、団結と活動が必要

すべての子どもたちの健やかな成育を願い我々小児医療界が成立に導いた「成育基本法」は、現在具体的施策の作業が完成しつつある。

日本小児科医会は成育基本法を四半世紀前から提唱し、成立に向けて中心的役割を果たしてきた。我々が施策として強く望んできたのは、乳幼児から思春期までの切れ目ない個別健診によって子ども1人ひとりの成長を見守る体制の構築である。

さらに、子ども家庭庁の設立も強く要望してきた。

この結果、今年2月に閣議決定された成育医療等基本方針では、「学童期及び思春期までの切れ目ない健診等の実施体制の整備に向けた検討を行う」と明記された。

これからの小児科医のためには、専門家としての団結と活動が必要である。

成育基本法成立や、小児コロナ加算、そして「子ども庁」の設立検討開始は、小児医療保健協議会(=四者協)が国に働きかけた成果であり、小児科医が一丸となれば国の政策に大きな影響を及ぼすことができる。

※小児医療保健協議会=日本小児科学会、日本小児保健協会、日本小児期外科系関連学会協議会、日本小児科医会

ぜひ若い小児科の皆様にも日本小児科医会の仲間に加わっていただき、大きな動きを作っていきたいと考えている。

Growth Ring事務局医学生スタッフコメント

事前のアンケートで話題に出た「Bright Futures」(出生から21歳までの子どもの月齢・年齢層に応じ、受診時に確認すべきポイントや質問例、診察すべき項目などが簡潔にまとめられているもの)についてはまったく知らなかった。

米国のもので日本とは文化も異なるとはいえ、講演にあった「小児科ネウボラを目指す」に際しては、折に触れて手に取る価値は大いにあり、地域総合小児医療認定制度の普及にも一役買うのではないだろうか。そういった制度を通した医師の団結の先に、国政への働きかけを行えるという点で非常に興味深い講演であったと思う。

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