学会情報

第124回日本小児科学会学術集会

地域小児保健関連事業への影響

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2021年4月16日~18日「第124回日本小児科学会学術集会」での特別企画3「コロナ禍による医療提供体制の変化」において、稲持 英樹先生(なばりこどもクリニック/三重県小児科医会)から、COVID-19流行が地域小児医療にもたらした影響と、それに対する小児科医の関与について三重県小児科医会で調査した結果、及び今後の小児科医のあり方について発表が行われた。

アンケート調査回答者について

2020年10月に三重県小児科医会会員に対してアンケート調査を行った。開業医が多く、若手医師の入会が少ないため、大半が40代以上であった。回答者の勤務地は県内全体に分布し、県内小児科医の分布に相当した分布と考えられる。

健康診査への影響

医師会会員で校医、園医、嘱託医を受託しているものに対し、健康診査の時期が調査された。

2020年の5月から6月にかけて緊急事態宣言が発令され、幼稚園や学校の休園・休校や、公共施設の利用自粛、集会の自粛などの措置が取られたが、これによる健診への影響を調査したものである。

医師67名のうち、例年通り実施したものが19名、遅れて実施したものが48名、中止となったものが1名であった。学校保健安全法では6月までに健康診査を実施することとされているが、昨年度は厚労省から年度内実施の通達があり、このような形になったと考えられる。

健診の行い方についての自由記述では、健診で濃厚接触者になると休診にせざるを得ず、また小児より中年以降の開業医の方が、重症化リスクが高いことなどから不安の声も見られた。休校解除後に、濃厚接触にならないように様々な措置を講じたうえで実施されたものが大半であった。

健診の内容については、心身症のような症状が多くみられるとの声が上がった。

不登校や登校渋り、不定愁訴、コロナ太り、生活習慣の乱れ、発達障害の悪化などが散見されたとする。また、国立成育医療センターの調査でも、子どもの中等度以上のうつ症状が、小学校低学年で15%、中学生で24%、高校生で30%に見られるとしており、COVID-19が小児に精神的に負の影響を与えていることが示唆されている。

国立成育医療センター コロナ×こども本部 :アンケートの結果をみる「第4回コロナ×こどもアンケート調査報告書」
https://www.ncchd.go.jp/center/activity/covid19_kodomo/related_info.html#3tab

予防接種への影響

緊急事態宣言中に打ち控えがあった、あるいはインフルエンザワクチンの希望が増加したとの回答も見られたが、7割程度が変化なしと回答していた。

もともと個別接種であったこと、また予防接種専用外来としていた場合にも時間をずらしたり、密を避ける工夫などを行ったりしたことで、影響が最小限になったと考えられる。

乳児健診への影響

三重県では4・10か月は個別健診、1歳半と3歳で集団健診を行うこととなっている。

個別健診に関しては、多少受診の遅れが見られたが、受診率の変化はほとんど見られなかった。

集団健診は半数程度で変化が見られ、健診が緊急事態宣言後に延期された、あるいは、個別健診に切り替えたとの回答も見られた。

総じて、COVID-19による影響は最小限にとどまったと考えられる。

地域小児保健医療に対する影響

影響が少なかった事業としては、乳幼児健診、予防接種、小児在宅医療、園児・学校医健診が挙げられる。一方で、大きな影響を受けた事業として、小児科の一般診療、病児・病児後保育、障がい児療育、妊娠・出産・産後支援、訪問事業などが影響を強く受けている。また、子育て支援活動についても、小集団で行う事業ができないことから実施が強く制限されている。

地域小児保健活動への小児科医の関与を調査したところ、関与している小児科医は極めて少なく、未回答のものも含めて推定すると1割にも満たないと考えられる。

本学会でも、小児保健活動を扱った演題はほとんどなく今後の課題であると考えられる。

成育医療センターの調査では子育て世代である保護者のうつ症状が3割程度に見られており、子育て世代は精神的ダメージを受けていることが窺われる。特に、こども・子育てのこと、自分の心・気持ちの問題で悩んでいる方が多く、これに対し、小児科医が介入していく必要があると考える。

Post-Coronaに予想される小児医療の変化

感染予防策による感染性疾患の構造変化が十分に予想される。また、今回の行動自粛で感染性疾患に対する対応が学習されたことから、今後は感染症が流行しづらくなることも考えられる。さらに、出生数の減少、新規妊娠届の減少もあり、少子化の進行は避けられないため、一般診療中心の小児医療機関は淘汰されていくと考えられる。

また、子育て支援活動の抑制による育児不安の増加及び学校・園活動の制約による心身的後遺症が想像される。

Post-Coronaを見据えたパラダイムシフトが必要であると考えられる。

将来の小児科医への提言2018

当学会の将来の小児科医を考える委員会が提唱した3つの柱は以下の通りである。

  1. コミュニティ小児科学
  2. 学術研究
  3. 小児医療提供体制

この中でも、「コミュニティ小児科学」を今後強く意識する必要があると考える。今後の小児科医は、子どもたちの総合医として多職種と連携してコミュニティの養育機能を牽引していく必要がある。

思春期に至る健診体制、乳幼児から青年に至る健康に関する啓発運動、予防接種、慢性疾患や医療的ケア児への地域生活支援、子どもの成育に関わる社会的問題への対応を行うとともに、これらの事項に対応できるようコミュニティ小児科学を必修として教育・研修を行う必要がある。

まとめ

COVID-19流行による小児の身体的疾患としての影響は少なかったが、感染拡大防止策による二次的な心身的影響が問題である。

また、子育て世代包括支援事業が縮小~中止され地域保健事業の制限による子育て世代の親子への心身的影響は計り知れないことと想像されるが、これらの活動への小児科医の関与は乏しい状況である。

昨今の状況を踏まえると、今後、多くの小児科医はコミュニティ小児科学に重心を移していく必要があると考えられる。

Growth Ring事務局医学生スタッフコメント

今回の発表で、小児科医の一般診療の厳しい状況について今一度認識するとともに、実臨床のみでなく、地域の様々なサービスと連携し、病気としてはっきり表れるような問題以外にもリーチアウトして取り組んでいくことの重要性を感じました。

小児科は、もともと疾患のみならず、子どもの成長や養育環境といった部分まで思いをはせ、包括的に診療を行うことが必要となる診療科ではありますが、そういった視点をさらに広く持つことが求められているものと捉えております。

一方で、病院の外でも活動を行うことは小児科医にとって負担になるかもしれないため、そういった活動に対する支援体制も整えるよう働きかけていくべきであると感じました。

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