
2022年10月15日に開催された「第54回 日本小児呼吸器学会」での「Hot Topic シンポジウム:新型コロナウイルス感染症」で、川崎医科大学小児科学講座の宮田一平氏が「SARS-CoV-2の検査」について発表した。
SARS-CoV-2の検査方法の特性
SARS-CoV-2の流行が始まって3年近くが経過。早い段階で遺伝子配列が解明された結果、スピーディに検査は普及した。現在では医療用抗原検査キットを薬局で購入することもできるようになり、ウイルス検査はよりいっそう浸透してきている。「本講演では、現場で頻用される検査の特性と、その特性が発揮される場面について振り返りたい」と宮田氏。
主に実施されている検査法は、核酸増幅検査と抗原検査である。
核酸増幅検査は、検体の中にあるウイルス遺伝子の一部を検査液と反応させることで増幅させ、検出する仕組みだ。適切に実施できれば非常に優れた方法である。ただし、感度が高く、理論的には1コピーという極微量のウイルスでも検出できるため、検体を処理する過程でわずかでも汚染させてしまうと、偽陽性になるデメリットがある。性能を最大限に発揮するためには、試薬や検体の取り扱いに注意が必要である。
抗原検査は、病原体のタンパク抗原を検出する方法で、核酸増幅検査に比べると若干感度が劣るものの、臨床上では十分な性能がある。簡便なことから日常診療でも実施されている施設が多い。
検体採取の3つの方法
検体の採取法は以下の3つである。
- ・鼻咽頭スワブ
- ・鼻腔スワブ
- ・唾液検体
基本的には、鼻咽頭スワブによる採取法が最も精度が高い。しかし、鼻の奥に深くスワブを入れなければならないため、患者が自己採取で質のよい検体を採取するのは難しい。医療機関で採取する際には、飛沫感染による医療従事者への感染リスクがともなう。
その点で、自己採取が簡単な方法として検討されているのが、鼻腔スワブによる検体採取法である。ただし、小児の場合は自身で採取するのは難しいため、親が実施することになるが、その場合も感染リスクがともなう。
鼻咽頭スワブ、鼻腔スワブに代わる採取法として、唾液検体は早い段階から検討されている。ある程度の年齢層の子どもであれば、自身で採取できるため、医療従事者や家族が感染リスクにさらされないメリットがある。ただし、ほかのスワブに比べると、採取した病原体の濃度が低いので、発症10日後以降の実施では正確な診断はできないと考えられている。
検査法ごとの適切な実施タイミング
では、どの段階で、どのような検査をすれば診断価値があるのだろうか。
核酸増幅検査では、検査陽性になるのは発症2日前からだが、その後、数週間にわたって陽性を示し続けることが分かっている。韓国の報告では、平均40日、場合によっては80日陽性が出続けたという例もある。感度が極めて高いので、極微量の汚染でも偽陽性が生じる上に、核酸分解酵素は環境中に遍在しているため、適切な条件を整えて検査を行わなければならない。
最近では、多項目遺伝子関連検査が普及しているが、「患者の病態を把握する前にスクリーニング検査をしてしまうと、複数項目が陽性になり、結果を解釈できない問題が起きているのではないか」と宮田氏は述べ、遺伝子検査に対する理解を高める必要性を説いた。
抗原検査(定性検査)は、発症時点から発症9日目までであれば陽性反応が出る。そのため有症者の確定診断に用いられる。新型コロナウイルスだけでなく、インフルエンザウイルス、RSウイルスなど、日常的な診断でも用いられる検査だが、病原の種類に限らず、適切に検体を採取しなければ反応が出ない。特に小児で偽陽性が出やすい傾向にあるため、採取された検体の質を意識しながら再検査するかどうかを判断する必要がある。
「検査キットには、反応を始めてからどのぐらいの時間をおいて判定をするのか、何分以上経ってから色が付いても陽性とは判定できないなど、細かく示されている。今一度、検査キットの説明書を読み、手技を見直してほしい」と宮田氏。
検査過程でのエラーを防ぐには
日本医師会雑誌(第151巻・第7号)の「POCTの現状と将来展望」によると、検査における各過程でのエラーの発生は、サンプリング時に3割、検査時に6割強起こっていると報告があった。臨床医が関わるサンプリングについては、検体採取の際に汚染させないための注意点のひとつとして、スワブのキャップ以外の部分を触らないようにすることが挙げられた。
また、検査における陽性結果と感染性は必ずしも一致しないため、検査だけでは感染性を判定することはできない。退院や隔離解除については、臨床症例に基づいて判断するのが望ましいといえる。検査で陽性であっても、患者の症状や発症からの期間などをもとに総合的に判断する必要がある。
まとめ
SARS-CoV-2の検査は簡単にオーダーできるものになったが、その結果を正しく解釈し、適切な医療に結びつけるためには、オーダーする医師が検査に対する一定の知識や、運用に対する考えを持っておくことが大事である。状況に応じて検査を使い分けできるよう、理解が広まることを願っている。