聖マリアンナ医科大学小児科学教室准教授の勝田友博氏は、第26回日本ワクチン学会学術集会のシンポジウム「今あるワクチンを正しく使う」において、「HPVワクチン接種の現状、今後の展開」と題し、講演を行った。
目次
国内におけるHPVワクチン接種状況
2020年、HPV9価ワクチン(HPV9)が任意接種ワクチンとして導入され、2022年4月には、2価・4価ワクチン(HPV2、HPV4)の積極的接種推奨が再開された。2023年からは、HPV9も定期接種化される予定となっている。
しかしながら、神奈川県川崎市での調査では、ワクチンが定期接種化された2022年4月以降も、接種数が伸び悩んでいる。
本講演では、接種数を増やすための取り組みを紹介する。
トレーニングを受けた医療従事者による説明介入
情報提供の重要性を調べた2016年の研究では、HPVワクチンについて質の高い説明をすることで、接種状況が約9倍となった、という結果が出ている。
アメリカ小児科学会(AAP)では、HPVワクチンに特化した、医療従事者対象のシミュレーショントレーニングのアプリがあるが、我が国では説明方法などを学ぶ機会が乏しい。これを踏まえ、日本小児科学会でも、AAPと共同で教育プログラムを始めた。
国内の医療従事者でワクチン忌避に関するスタディを施行し、日本特有の問題点を取り上げ、対応法をビデオにまとめた教材を用いて、国内で育成したファシリテーターに対しセミナーを開催、という流れである。
地域における診療・相談体制の強化
国内では、接種後、心配なことがあった場合、最終的には地域の協力医療機関で対応するシステムがすでに準備されているが、まずは実際に接種をした地域の小児科医が初期対応をすることが肝要である。
2015年に、日本医師会・日本医学会から出された「HPVワクチン接種後に生じた症状に対する診療の手引き」には、接種後に症状が生じた患者への対応、協力医療機関などとの連携、日常生活の支援と、学校(職場)家庭との連携などがまとめられている。
9価ワクチン定期接種化にともなう問題の整備
以下に、9価ワクチン定期接種化にともない想定される質問に対する見解を述べる。
9価が定期接種化されるまで待ったほうがよいか?
原則、性的活動が始まる前に速やかに接種したほうがよいといわれている。
途中まで接種して間隔があいてしまった場合は?
接種を最初からやり直す必要はなく、残りの回数を接種すればよい。欧米各国でも、同様に定められている。
交互接種は大丈夫か?
現行では、同一製剤で接種を完了することが原則とされているが、HPV2・HPV4とHPV9の交互接種について、一定程度の免疫原性と安全性が示されたエビデンスがある。
英国やカナダ、オーストラリア、ニュージーランドでも交互接種が認められており、我が国でも、医師と相談の上、HPV2・HPV4の先行接種があっても、HPV9との交互接種を容認する方向で調整が進んでいる。
接種対象とスケジュール
世界的には、男女を対象とした2回接種が大きな流れだが、我が国においては男性への接種適応拡大と2回接種の議論や準備はやや遅れており、2023年のHPV9定期接種導入の時点では、女児に対する3回接種のままとなる。
接種状況の可視化〜神奈川県の取り組み〜
「神奈川県におけるHPVワクチン接種状況に関する研究」の結果によると、ワクチン接種者は、2022年から増えているが、年齢は、推奨年齢の中学1年生ではなく、15歳前後が多く、20歳前後の接種者も相当数を占めている。定期接種が伸びておらず、キャッチアップ接種が伸びているようである。
本研究の詳しいデータは、日本小児科学会神奈川県地方会のHP(https://jps-kanagawa.jp)から閲覧可能である。
勝田氏は、HPVワクチンを国内で正しく使うためには、
- ①医療従事者トレーニングの導入
- ②HPV9ワクチンの定期接種化に向けた各論の整備
- ③実際の接種状況の可視化により、安心して接種できる環境を維持
が必要不可欠であると語り、講演を締めくくった。