学会情報

第60回日本小児アレルギー学会学術大会

CQ14 乳幼児のウイルス感染による初回喘鳴の治療にステロイド薬は有用か?

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取材日:

2023年11月18、19日に開催された第60回日本小児アレルギー学会学術大会より、シンポジウム2 小児気管支喘息ガイドライン2023 を紹介する。

獨協医科大学医学部小児科学 吉原 重美氏、群馬大学大学院医学系研究科小児科学分野 滝沢 琢己氏が座長を務めるなか、「CQ14 乳幼児のウイルス感染による初回喘鳴の治療にステロイド薬は有用か?」と題して浜松医科大学医学部附属病院小児科の犬塚 祐介氏が講演を行った。

新たに追加されたClinical Question(CQ)

  • 【CQ14】乳幼児のウイルス感染による初回喘鳴の治療に、ステロイド薬は有用か?
  • 【推奨文】ウイルス感染による初回喘鳴の治療に、ステロイド薬を投与しないことが提案される。
  • 推奨度:3 エビデンスの確実性:D(とても弱い)

急性細気管支炎

乳幼児期の呼気性喘鳴は急性喘鳴と反復性喘鳴に分けられる。急性喘鳴の中でも頻度が高いものの一つとして挙げられる細気管支炎は、乳児や幼児に影響を及ぼす下気道の急性ウイルス感染症とされ、その治療において各国のガイドラインでステロイド投与は推奨されておらず、対症療法が基本となっている。

そこで、乳幼児のウイルス感染による初回喘鳴の治療にステロイド薬は有用か、をCQとして解析を行った。

生後24カ月未満の系統的レビュー:対象と方法

生後24カ月未満の細気管支炎による初発喘鳴に対するステロイド薬の有用性を検討したコクランレビューが、2013年に発表されている。今回は、その後に報告されたランダム化比較試験の文献を加え、ステロイド薬投与の効果について、系統的レビューを行った。解析に用いた文献は、コクランレビュー2,533文献から採用した17文献と、本ガイドラインを作成するにあたり新たに1,323文献から採用した1文献の計18文献である。

細気管支炎による初発喘鳴を認めた24カ月未満の患者を対象とし、短期間の全身ステロイド、あるいは吸入ステロイドの投与を行った。主要評価項目は、外来患者の1日目までと7日目までの入院率、入院した患者の場合は入院期間とした。また、副次評価項目は、臨床重症度スコア、酸素飽和度、呼吸数、心拍数、入院患者における退院後の再入院、全患者の再受診、外来患者の病院滞在時間、呼吸機能検査、症状とQOL、有害事象とした。

生後24カ月未満の系統的レビュー:結果

主要評価項目である外来患者の1日目までと7日目までの入院率、入院患者の入院期間について、ステロイド薬使用の有無で有意な相違は認められなかった。

副次評価項目の外来患者の病院滞在時間、外来患者の臨床重症度スコア、入院患者の酸素飽和度、外来および入院患者の呼吸数、外来および入院患者の心拍数、入院患者における退院後の再入院、外来および入院患者の呼吸症状による予定外の再受診率、いずれにおいても、ステロイド薬使用の有無で有意な相違は認められなかった。

入院患者の臨床重症度スコアについては、ステロイド投与群で3-6時間後、6-12時間後にプラセボ群と比較してスコアの有意な改善が示されたが、用いられている臨床スコアがすべての文献で同じでないこと、12時間以降は有意差が認められないことから、効果は一時的であったと考えられる。また、外来患者の酸素飽和度について、ステロイド投与群で3-6時間後プラセボ群に比較して酸素飽和度の有意な低下がみられたが、前後で差を認めなかったことから、こちらも一時的なものと考えられる。

呼吸機能、症状とQOL、有害事象については、メタ解析を実施していないが、いずれの項目についてもステロイド投与群とプラセボ群で差は認めなかった。

生後24カ月未満の系統的レビュー:エビデンス評価

エビデンス総体について、不精確性は症例数が少ないことでマイナス評価が多く、非直接性はステロイドの投与方法が異なること、ステロイド以外の介入があること、評価するスコアが異なっていることからマイナス評価が多い。その他として、入院基準、入院期間、病院滞在時間など各国の医療体制によって異なる可能性がある点、文献数が少ない点でマイナス評価となっている。

リミテーションとしては、ステロイド薬の種類や投与方法、投与量、投与期間が様々であり、各国の医療水準や医療事情が異なる、対象月齢の平均値もしくは中央値が18文献中すべてで12カ月未満、さらに12文献では生後6カ月未満と乳児に偏っている点が挙げられる。さらに、今回は初発の喘鳴に限定しての解析であるため、乳幼児で喘鳴が反復する場合、気管支喘息の増悪時に準じたステロイド薬治療が有効かどうかについては不明である。また、長期経過についても今回のシステマティックレビューからは不明である。

以上より、CQ:乳幼児のウイルス感染による初回喘鳴の治療にステロイド薬は有用か?に対して、ウイルス感染による初回喘鳴の治療に、ステロイド薬を投与しないことが提案される、と推奨文をまとめた。

参考資料

小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2023

監修:滝沢琢己、手塚純一郎、長尾みづほ、吉原重美
作成:一般社団法人日本小児アレルギー学会
出版:株式会社協和企画

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