学会情報

第60回日本小児アレルギー学会学術大会

乳幼児喘息の特殊性とその対応

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2023年11月18、19日に開催された第60回日本小児アレルギー学会学術大会より、シンポジウム2 小児気管支喘息ガイドライン2023 を紹介する。
獨協医科大学医学部小児科学 吉原 重美氏、群馬大学大学院医学系研究科小児科学分野 滝沢 琢己氏が座長を務めるなか、「乳幼児喘息の特殊性とその対応」と題して獨協医科大学医学部小児科学の宮本 学氏が講演を行った。

「第9章 乳幼児期の特殊性とその対応」の変更点

  • 乳幼児喘息の診断とフローチャートにおいて
  • ・鑑別・診断ブロックと診断的治療ブロックを縦につなげて1ページで示した
  • ・判断が生じる箇所はひし形で、処理(プロセス)の部分は四角形で表した

早期介入の重要性

海外の研究によると、乳幼児期に喘息様症状を呈した小児では、6歳までに喘鳴の有病率と呼吸機能のレベルが確立され、それは16歳まで変化がないとされている。また、6歳までに気道のリモデリングが生じることが指摘されており、早期アレルゲン感作がある患者では特に大きく影響する。様々なデータを統合すると、1歳から3歳の間に介入することで肺機能の低下を最小限に抑え、疾患を改善できる可能性があることが示唆される。

日本での介入研究においても、GINA(Global Initiative for Asthma)では長期管理の対象とならないJPGL(小児気管支喘息治療・管理ガイドライン)軽症持続型に分類される5歳以下の喘息患者を対象に、モンテルカストによる長期管理を行った群とコントロール群とで比較したところ、モンテルカスト投与群で急性増悪が有意に低下し、治療のステップアップやβ2刺激薬の使用が有意に減少したことが報告されており、早期の治療介入の重要性が示されている。

乳幼児喘息の病型分類

乳幼児喘息の病型分類には、大規模な研究によって得られたフェノタイプ(病型分類)がある。最も有名なものは2003年に発表されたTucsonのChildren's Respiratory Studyのフェノタイプで、JPGL2023の第9章に図表が示されている。また、日本でも2018年に、東京都のコホートにおける喘鳴エピソードを調査しトラジェクトリー解析によって、健常児を含めて5種類のフェノタイプに分類されたことが報告されている。今後は、フェノタイプに基づいた成人期の呼吸機能や治療のフォローアップが課題と思われる。

乳幼児喘息の診断

JPGL2023に掲載されている、乳幼児喘息の診断とフローチャートにおける旧版との変更点は、鑑別・診断ブロックと診断的治療ブロックを縦につなげて示したこと、さらに、判断が生じる箇所はひし形で、処理(プロセス)の部分は四角形で表した点である。

ここからフローチャートを確認するが、ぜひJPGL2023と合わせてみていただきたい。6歳未満の呼気性喘鳴患者を対象に、初回の喘鳴か、2回目以降かを確認し、初回であれば急性喘鳴、それ以外であれば反復性喘鳴の鑑別を行う。

初回喘鳴(急性喘鳴)であれば、急性喘鳴の鑑別をしたうえで治療を行う。治療後は定期的にフォローし、喘鳴が反復するかどうかを確認することが望ましい。

反復性喘鳴や急性喘鳴のフォローアップで喘鳴を再発する場合は、反復性喘鳴の鑑別を行う。喘鳴のエピソードが24時間以上持続し、それが3回以上反復する場合は、β2刺激薬への反応性を確認する。なお、必ずしも3エピソードではなく、1回のエピソードでも中〜大発作に相当する場合は、次のステップに進んでも良い。

β2刺激薬で症状が改善する場合は、乳幼児喘息と診断する。

改善がみられない場合には、診断的治療を行う。診断的治療では、重症度に応じた長期管理薬を1カ月間投与し、喘鳴がコントロールできた時点で投与を中止し経過観察を行う。症状が増悪した場合は、投与を再開して喘鳴のコントロール可否を判断する。治療を実施している間は症状がなく中止している間に再燃する場合を、乳幼児喘息と判断する。長期管理薬使用の有無にかかわらず症状に変化がない場合は、乳幼児喘息の診断を否定的と考え鑑別診断を再度行う。標準的な治療に抵抗性の反復性喘鳴には特に注意が必要である。

フローチャートで乳幼児喘息の診断後はIgE関連喘息、あるいは、非IgE関連喘息に分類をする。乳幼児期のIgE感作は、その後の喘息発症に大きな影響を与えることが示唆されているため、この分類は重要である。IgE関連喘息の診断に有用な指標として、家族歴やアトピー性皮膚炎の既往、吸入アレルゲンに対する特異的IgE抗体の検出などがあり、いずれかを満たす場合にIgE関連喘息、満たさない場合には非IgE関連喘息と考え、フォローアップや治療を行う。

非IgE関連喘息は、成長とともに寛解するケースが多いと考えられているが、診断時に非IgE関連喘息であっても、徐々に吸入アレルゲンへの感作が進むこともあるため長期的なフォローアップが必要である。

乳幼児喘息の治療と長期管理

乳幼児喘息の治療と長期管理の詳細については、JPGL2023 第5章を参照いただきたい。旧版からの変更点として治療ステップ3の追加治療としてICS(吸入ステロイド薬)/ LABA(長時間作用性吸入β2刺激薬)合剤が追加された。SFC(フルチカゾンプロピオン酸エステル/サルメテロールキシナホ酸塩配合剤)は生後8カ月から、FFC(フルチカゾンプロピオン酸エステル/ホルモテロールフマル酸塩水和物配合剤)は5歳から保険適用がある。また、吸入薬使用時、患者の年齢を考慮してデバイスの選択は慎重に行う。

乳幼児期の喘鳴はありふれた病態であり、乳幼児喘息の診断は必ずしも容易ではない。フローチャートに則った診断を進める際、頻度は低いものの他疾患との鑑別を常に考慮していただきたい。診断的治療は乳幼児喘息の診断に有用であり、今後、児の病態に合わせた早期介入が予後を改善するという、更なるエビデンスの蓄積が望まれる。

参考資料

小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2023

監修:滝沢琢己、手塚純一郎、長尾みづほ、吉原重美
作成:一般社団法人日本小児アレルギー学会
出版:株式会社協和企画

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