学会情報

第60回日本小児アレルギー学会学術大会

クリニカルクエスチョン:環境整備としてのダニ対策

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取材日:

2023年11月18、19日に開催された第60回日本小児アレルギー学会学術大会より、シンポジウム2 小児気管支喘息ガイドライン2023 を紹介する。
獨協医科大学医学部小児科学 吉原 重美氏、群馬大学大学院医学系研究科小児科学分野 滝沢 琢己氏が座長を務めるなか、「クリニカルクエスチョン:環境整備としてのダニ対策」と題して福井大学医学系部門医学領域小児科学の伊藤 尚弘氏が講演を行った。

新たに追加されたClinical Question(CQ)

  • 【CQ8】小児喘息患者の長期管理において、自宅のダニアレルゲン対策は有用か?
  • 【推奨文】自宅のダニアレルゲン対策を行うことが提案される。
  • 推奨度:2 エビデンスの確実性:C(弱)

環境整備としてのダニ対策をCQに採用した経緯

気管支喘息は、遺伝因子・環境因子によって気道の慢性炎症が惹起され、発作性に起こる気道狭窄により咳嗽・呼気性喘鳴を繰り返す疾患と定義される。環境因子のうち気道過敏性の誘発・増悪因子であるアレルゲン、特にダニの管理に関しては、すでにコクランレビューで検討が行われ、その効果は疑わしいとされている。しかし、コクランレビューは成人も含めた検討であること、報告から10年以上経過していることから、小児に限定した場合の効果についてあらためて検討する必要があると考え、今回のシステマティックレビューが計画された。

方法

「小児アレルギー学会システマティックレビュー作業マニュアル」に準じてシステマティックレビューを実施した。

設定したデザインは以下のとおりである。

ダニ感作を有する喘息患者の家におけるHDM(ハウスダストダニ)抗原暴露減少の効果を評価することを目的とし、対象とする研究デザインはRCTのみとした。対象患者は、医師により喘息と診断され、皮膚テスト、気道暴露、特異的IgE抗体価のいずれかが陽性であるものとした。ダニの駆除対策は、殺ダニ剤を使用、ダニ除去シーツや掃除機などによる物理的介入、殺ダニ剤と物理的介入の組み合わせ、のいずれかを実施しているものとし、それぞれ実施の有無により対照群と介入群に分けて比較検討した。アウトカムは主観的な症状、喘息症状スコア、薬剤使用量、学校や仕事を喘息症状が原因で休んだ日数、予定外の受診回数、1秒量、ピークフロー、気道過敏性試験、呼気中一酸化窒素濃度の9項目を設定した。

結果

解析対象の研究は、2011年までに報告されたコクランレビュー55研究から18研究、今回新たに2022年までに報告された約3,500の研究から7研究に絞り込み、最終的に25研究を採用した。

介入方法は殺ダニ剤によるものが9研究、物理的介入が20研究であった。採用した研究のうち、ダニ抗原の量を測定し、その増減を確認している研究は11研究であり、今回新規に追加した7研究中6研究で行われていた。

地域別では、アメリカ2研究、ヨーロッパ14研究、アフリカ3研究、オーストラリア1研究、アジア5研究であった。採用した研究のうち、日本のものは1研究のみであった。

主観的な症状は該当する4研究で解析し、両群間で有意差は認められなかった。ダニの増減を確認した2研究を抽出して検討してみたが、同様に有意差はなかった。

喘息症状スコアについては該当する6研究で解析し、介入前後の比較と介入後のスコアで検討したところ、介入前後の比較では対照群で有意に改善し、介入後のスコアでは有意差は認められなかった。

薬剤使用量については該当する1研究で、介入群で有意な改善を認めた。

学校や仕事を喘息症状が原因で休んだ日数については該当研究がなかった。

予定外の受診回数については該当する1研究で、介入群において有意な改善が認められた。

1秒量については該当する6研究で解析し、両群間で有意差は認められなかった。ダニの増減を確認した3研究を抽出して検討してみたが、同様に有意差は認めなかった。

ピークフローについては該当する7研究で解析し、わずかではあるが介入群で有意な改善が認められた。ダニの増減を確認した4研究で検討すると、介入群で有意な改善を認めた。

気道過敏性試験においては該当する4研究で解析し、有意差は認められなかった。

呼気中一酸化窒素濃度においては該当する1研究で、両群間に有意差は認められなかった。

考察

ダニ抗原に対する介入について、コクランレビューでは効果がない、とされていたのに対し、今回の検討では薬剤使用量、予定外の受診回数、ピークフローの項目で有意に改善が認められた。

この違いは、成人と小児では病態が異なることが関係していると考えられる。小児の場合はアトピー型が多いのに対して、成人では肥満や喫煙の影響が大きくなる。我々の検討では対象を小児に限定したが、コクランレビューでは成人も含まれていたため、ダニの除去効果が薄れてしまったのではないかと推察される。

さらに、コクランレビューではダニの増減を確認していなかったことも関係していると考えられる。今回追加した7研究中6研究でダニの増減を確認していたのに対し、コクランレビューでは18研究中5研究でしか確認しておらず、介入自体が不十分であった研究が含まれている可能性が示唆される。

リミテーション

本システマティックレビューのリミテーションについては次の3点が挙げられる。

1点目は、介入自体が適切であったかという点である。例えば、物理的介入であるベッドで使うダニ除去シーツは範囲が限定的である。一方で、広い家全体に介入することは不可能であり、家屋の中でダニ抗原が多いことが証明されている寝室や布団に介入することは妥当とも考えられる。

2点目は気候環境の影響である。高温多湿の日本と気候が異なる欧州やアフリカの研究を合わせ検討してよいのか、という疑問が残る。実際、日本ではダニ抗原が海外に比べ有意に増加していることが報告されている。

3点目は対照群が対照群として適切に機能したか、という点である。対照群として協力いただいた家庭において、普段より掃除をしていた可能性はあると考えられる。

まとめ

本システマティックレビューの結果、ダニ抗原に対する介入に対して一部有意な改善が認められたものの、気候環境の異なる海外の研究が大部分であったため、本邦でのさらなる検討が必要である。

参考資料

小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2023

監修:滝沢琢己、手塚純一郎、長尾みづほ、吉原重美
作成:一般社団法人日本小児アレルギー学会
出版:株式会社協和企画

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