学会レポート

第60回日本小児アレルギー学会学術大会

JPGL2023長期管理の改訂のポイント

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2023年11月18、19日に開催された第60回日本小児アレルギー学会学術大会より、シンポジウム2 小児気管支喘息ガイドライン2023 を紹介する。
獨協医科大学医学部小児科学 吉原 重美氏、群馬大学大学院医学系研究科小児科学分野 滝沢 琢己氏が座長を務めるなか、「JPGL2023長期管理の改訂のポイント」と題して群馬大学大学院医学系研究科小児科学分野 八木 久子氏が講演を行った。

第5章 長期管理 主な改訂ポイント

  • 章のタイトル:「長期管理に関する薬物療法」から「長期管理」に変更
  • 目標: 治療・管理両方の視点から提示
  • サイクル図: 共同意思「決定」を提示
  • 病診連携: 専門医と連携するタイミングを明確化
  • 薬物療法: 
    ・生後8ヶ月からICS/LABAが使用可能、より少ないICS量のICS/LABAを考慮
    ・Type 2 low喘息にも効果が期待できる抗TSLP抗体が登場
    ・ダニが喘息の増悪因子の場合はダニアレルゲン特異的免疫療法を検討
  • ICS:吸入ステロイド薬、LABA:長時間作用性吸入β2刺激薬、TSLP:胸腺間質性リンパ球新生因子

第5章 のタイトル

JPGL(小児気管支喘息治療・管理ガイドライン)2023では、薬物療法以外の重要性を強調するため、章のタイトルが「長期管理に関する薬物療法」から「長期管理」に変更となった。


長期管理は、薬物療法、急性増悪の誘引となる増悪因子への対応、患者教育・パートナーシップの三位一体で進めることが重要であるため、章の順番と内容を、第5章長期管理、第6章増悪の危険因子とその対策、第7章患者とのパートナーシップ、吸入指導、としている。

目標とサイクル図

目標については、旧版では治療目標のみであったが、今回は医療者側からの管理目標を追加し、治療と管理、両方の視点から提示している。

長期管理のサイクル図も変更となり、共同意思決定の「決定」という単語が追加された。長期管理においては、患者の主体的な治療への参加が重要である。そのため、患者と医療提供者が共同で意思決定を行うプロセスを図で提示し、評価、調整、決定、治療のサイクルをもとに長期管理を行うこと、としている。

病診連携

病診連携について、新たな項目を設け図表にも反映し、専門医と連携するタイミングを明確化している。

病診連携は、複数の医療機関が協力して適正で効率的な診療を目指すものである。過去に入院を伴う急性増悪の既往、治療ステップ3以降の治療で良好なコントロール状態が得られない場合、薬物による副作用が懸念される場合は、専門医と連携した治療を検討すると示されている。また、治療ステップ4の基本治療でコントロール不良の場合も、専門医へのコンサルトを考慮し、鑑別診断や増悪因子の再評価など専門的な診療を行うよう示されている。

薬物療法

JPGL2023では生後8ヶ月からICS(吸入ステロイド薬)/LABA(長時間作用性吸入β2刺激薬)が使用可能となった。

これは、2020年11月にSFC(フルチカゾンプロピオン酸エステル/サルメテロールキシナホ酸塩配合剤)の添付文書が変更となり生後8ヶ月から適用となったこと、などを根拠としている。ただし、長期使用における安全性のデータは乏しいため、漫然と使用せずにコントロール状態に応じて、ICS単独への切り替えを考慮するよう示されている。

このSFCの添付文書の変更などが反映され、5歳以下の長期管理プランでは、治療ステップ3、4の追加治療においてICS/LABAが追加となった。

また、6歳から15歳の長期管理プランでは、治療ステップ3、4の基本治療においてはICS/LABAとICSの位置が逆転し、最上位にICS/LABAが配置された。

小児喘息患者においてICSで治療中にステップアップする際、ICS増量とICS/LABAのどちらが有用かについてメタ解析を実施したところ、全身性ステロイド薬を要する急性増悪の回数、入院を要した急性増悪、救急受診、夜間喘息症状スコア、有害事象において、ICS増量とICS/LABAで有意差は認めなかったが、ピークフロー値の改善と成長抑制への影響についてICS/LABAが優れていた。これらの結果を受け、ICS増量とICS/LABAは有用性に関して明らかな差がなく、いずれも提案されるという推奨になっている(第5章CQ7)。

成長抑制への影響については、ICS/LABAよりもICS増量のほうが身長の伸び率が低いこと、また、ICSの少ない量(Lower dose)よりも多い量(Higher dose)のほうが身長の伸びが少ないことが報告されている。

さらに、喘息患者対象の大規模メタボロミクス研究で、ICSの用量依存的に内因性ステロイド代謝産物が減少することが認められ、ICS低用量の使用でも有意に減少したことが示されている。

生物学的製剤の位置づけ

6歳から15歳の長期管理プランでは、旧版以来、ステップ4の追加治療の最初に考慮すべき治療法として、生物学的製剤が配置さている。今回も位置づけに変更はないが、生物学的製剤と高用量ICS/LABAの行間が少しあいている。この理由として、ICS増量による治療効果の頭打ちや全身への影響を考慮することとともに、生物学的製剤の種類が増えたことや、小児を対象とする試験で効果や安全性が示されてきたこと、自然免疫が関与するステロイド抵抗性に関して少しずつ明らかになっていることが挙げられる。

生物学的製剤の一覧には、2022年に発売された抗TSLP抗体のテゼペルマブが追加となった。テゼペルマブは、12歳以上の小児および成人の、中用量または高用量のICSとその他の長期管理薬を併用しても、全身性ステロイド薬の投与などが必要な喘息増悪をきたす患者に適用がある。また、在宅自己注射や他の適応疾患についても一覧に追加となっている。今回、製剤選択に関してエビデンスを基にしたフローチャートなどで示すことはできなかったが、他の適応疾患を示すことで併存症などがより考慮されることを期待している。

ダニアレルゲン特異的免疫療法

6歳から15歳の長期管理プランにおいて、全治療ステップにダニアレルゲン特異的免疫療法(AIT)が配置されている。

ダニ皮下免疫療法(SCIT)、ダニ舌下免疫療法(SLIT)のRCTを採用しメタ解析を行ったところ、SCITでは喘息症状、頓用薬の使用、全身性ステロイド薬の使用、長期管理薬の使用量が改善し、SLITでは喘息症状、呼吸機能において改善を認めた。一方で、安全性に関してSCITで死亡例を含む副反応が、SLITでは全身症状は少ないながら副反応が報告されている。

これらの結果を踏まえて、ダニAITに関しては小児喘息に対する治療効果が期待でき、十分な注意を払ったうえで、ダニに感作された小児喘息に対する長期管理における標準治療の一つであることが提案されている。なお現時点で、我が国では5歳以上の小児喘息に対してSCITの保険適用はあるが、SLITは小児喘息に適用がないことに留意する必要がある(CQ2)。

参考資料

小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2023

監修:滝沢琢己、手塚純一郎、長尾みづほ、吉原重美
作成:一般社団法人日本小児アレルギー学会
出版:株式会社協和企画

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