学会情報

第124回日本小児科学会学術集会

COVID-19流行の小児救急外来受診への影響

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2021年4月16日~18日「第124回日本小児科学会学術集会」での特別企画3「コロナ禍による医療提供体制の変化」において、伊藤 友理枝先生(あいち小児保健医療総合センター救急科)から、ご講演いただいた。

COVID-19流行の小児救急外来受診への影響

2020年3月から行われた小・中・高等学校の臨時休校、その後の緊急事態宣言により、救急外来は患者集が激減した。

本講演では、「COVID-19の流行が小児救急外来の受診に与えた影響」について、あいち小児保健医療総合センター 救急外来受診患者のデータを元に調査した結果を述べる。

対象期間は2019年、2020年の1月~8月。20歳以上の患者と非緊急(レベル5)の患者を除外し、2019年は5,365人、2020年は3,658人が調査対象となった。

Poisson回帰分析を用いて、2019年と2020年の週ごとの患者数のカウントデータを比較した。結果変数に週ごとのカウントデータ、説明変数に休校前後・年・季節性を用いた。大きなセットポイントと考えられる休校宣言に着目して統計解析を行った。有意水準は0.05としている。

受診患者数、感染性疾患とその関連疾患、非感染性疾患、医療的ケア児のER受診者数

・受診患者数

ERの受診患者数、入院患者、緊急度ごとの患者数、受診方法ごとの患者数(Walk-in、救急車)いずれも、2020年は減少しており有意差が認められた。

・感染性疾患とその関連疾患

患者数の減少において、統計学的に有意差があったのは次の疾患である。

  • ― 急性呼吸器感染症(7割減)
  • ― 胃腸炎(8割減)
  • ― RSウイルス感染症
  • ― 喘息
  • ― けいれん

患者数の減少において、有意差が認められなかったものは次の疾患であるが、もともとの発生数が少なかったことも誘因と考えられる。

  • ― アデノウイルス
  • ― 溶連菌
  • ― 川崎病

インフルエンザ、ヒトメタニューモウィルス感染症は発生数が少なく解析できなかった。

・非感染性疾患

小児の代表的な非感染症疾患の患者数について調べたが、変化はなかった。

  • ― 尿路感染症
  • ― 外傷
  • ― 熱傷
  • ― 食物アレルギー
  • ― 頭痛
  • ― 便秘

・医療的ケア児のER受診

医療的ケア児のER受診患者数においては、統計学的に有意な差はなかった。また、受診遅れによる重症化例も認められなかった。患者個別で適切な受診が行われていたと考えられる。

・まとめ

内在性疾患や外因性疾患は変化がなく、感染症関連の疾患の減少が患者総数や入院数の減少に影響したと考えられる。

本調査結果は単施設のみのデータで、かつ都市部と比較すると受診数が元々少ない地方の施設であるということ、また、そもそも発生数が少ない疾患があるため結果への影響があったと考えられる。

COVID-19が小児救急外来へもたらした影響

患者1人あたりにかける時間や教育や研究の時間を、多く取れるようになり医療の質の向上にはつながったのではないか。

一方、課題としてはまず施設の減収が挙げられる。さらに、COVID-19疑い患者(疑似症例)への対応に多くの時間がとられてしまう点、看護スタッフや若手医師にとっては、患者数減少により経験できる症例が減少し、教育機会の損失につながっている点があるだろう。

まとめ

COVID-19流行により、感染症を主としてER受診者は減少した。患者が減少したことにより、診療の質は高まったと考えられるが、現実的な問題は内在したままとなっていると考えられる。

Growth Ring事務局医学生スタッフコメント

感染性疾患が減少したのはニュース等で耳にするとおりだが、医療的ケア児のER受診が適切に行われていた点は、医療者の多大な努力と患者・家族に対する教育の賜物だと思う。

多施設で本研究と同様の研究を行い、解析することで、今のコロナ禍での医療の舵の切り方、ひいては将来的に再びパンデミックが起こった際の参考になるのではないだろうか。

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