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学会レポート・取材

第124回日本小児科学会学術集会

過度なメディア視聴も含めたマルトリートメント(避けたい子育て)

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2021年4月16日~18日「第124回日本小児科学会学術集会」での分野別シンポジウム13 「COVID-19のこどものこころや社会への影響:COVID-19と共に暮らす」において、友田明美先生(福井大学子どものこころの発達研究センター発達支援研究部門)から、「過度なメディア視聴も含めたマルトリートメント(避けたい子育て)」と題して講演がなされた。

マルトリートメントの定義

マル(=悪い)トリートメント(=あつかい)とは、「子どもへの避けたい関わり」である。
全国の児童相談所の対応件数はこの30年弱で176倍となり、2019年に19万件を超えている。

マルトリートメント(略してマルトリ)を無くすことで、成長後の心のトラブルである、うつ病やアルコール・薬物依存症などの心のトラブルを抱える患者を減らすことができるというエビデンスも報告されている。マルトリを無くすことは、医療費の削減にもつながっていく。

子育て困難により傷つく脳

脳は乳幼児期に発達し、1歳で大人の70%、4歳では95%に成長していく。脳の成長には時間や栄養だけではなく、活動・経験が関わってくる。この時期に受けたマルトリが脳にどのような影響をもたらすのかを、2003年より研究・解析を行ってきた。

研究の中で、脳がさまざまな経験により変容することがわかってきた。

「マルトリや虐待により傷つく脳」を、「子育て困難により傷つく脳」と呼び方を変えた。

子育て困難な家族が繰り返すマルトリは家庭からのSOSである。彼らに寄り添い、多機関につなぐ"おせっかい"が必要である。少子化が進む中、彼らを加害者扱いにするだけで済む時代ではない。

過度なメディア曝露が子どもたちの脳へ与える影響

ここで、メディアへの曝露問題について触れる。「ながら育児」は親子のコミュニケーション時間を奪い結果的にネグレクトにつながるが、ハーバード大学精神科のタイチャー(Teicher)からは、ネグレクトにより子どもの脳梁の容積が減少することが報告されている。

乳幼児期の過度なメディア曝露についての動物実験結果では、乳幼児期の過度な光映像刺激は、落ち着きがなく、学習能力が低くなるといった認知行動上の障害にもつながる可能性が示唆されている。

また、東北大学の川島研究所からは、ビデオゲームが与える子どもの脳への影響として、さまざまな脳局所領域の微小構造発達や言語性知能発達の遅れが報告されている。

スマホやPCの普及によるデジタル革命は、環境の影響を受けやすい子どもたちにさまざまな影響をもたらしている。

デジタル革命が子どもたちにもたらすメリット・デメリット

Learning編

膨大な情報に即時にアクセスでき、第一線の話や興味に基づいた情報を手に入れることができるメリットがある一方で、氾濫する情報から自分に合った情報を選別する力が必要で、またPCを触りながらSNSを利用する「マルチタスキング」が脳に変化を与えるとされる。

Play編

遊びながら学ぶことができる可能性を秘めている点はメリットである一方で、誘惑に負けてすべきことができなくなったり、性の問題の助長、暴力の誘発の可能性がある。

Social Interaction編

国や人種、宗教を超えてあらゆる人とつながることができる点はメリットである。デメリットとしては、今までとまったく異なるタイプの相互作用、時間の浪費、また、ネットいじめの危険性を孕んでいる。

小児期のマルトリートメントが及ぼす脳への影響

小児期のマルトリ経験という慢性的なストレスは、神経系や内分泌系・免疫系に影響し、epigenetics(エピジェネティクス)な変化が起きているのではないか、そしてこのことが成人後の心や脳との因果関係に大きく関与しているのではないかと考え研究を行っている。

2019年に、我々はマルトリを経験した子どもはオキシトシン(分娩、射乳にかかせないホルモンだが、最近は信頼や愛情にも関わる)受容体遺伝子の一部が、通常の同年代の子どもに比べてよりメチル化され、オキシトシンの働き方に違いを生じさせている可能性があることを解明し、その研究結果を報告した。

また、同研究結果では「DNAメチル化率の大きさ」は、他者との愛着形成に重要とされる「左前頭眼窩皮質の容積の小ささ」と関連しており、さらにその容積の小ささは子どもが他者に示す「愛着不安の高さ」と関連していることも明らかにした。

マルトリートメント児の愛着不安にはオキシトシン受容体の DNA スイッチが関与している:https://tomoda.me/resources/press_2019.pdf

しかし、子どもの脳は回復の余地があると考えている。マルトリを経験した12歳の愛着障害を持つ児について、養育者に寄り添って治療を続けたところ7か月後に線条体の一部の脳血流増加が見られたという結果もある。

子育て困難に対する対策

養育者の育児の孤立化、「孤育て」が増加し閉塞感が増している。学校や施設、地域社会など多領域との連携が必要である。この12年で、子育ての悩みを相談できる人、子どもを預けられる人、子どもを叱ってくれる人がいる、と答えた養育者は大きく減少した。

COVID-19禍の外出制限時に、マルトリが10~20%増加したという厚生労働省の速報報告がある。

そこで、国内の約300名の養育者を対象に「休校措置と育児ストレス」について調査したところ、休校措置で育児ストレスは有意に増加していることがわかった。また、同調査では父親より母親の養育ストレスが大きく、養育ストレスとしては「家事負担の増加」「1人になる時間の減少」「子どもの学習の遅れなどによる不安」などが挙げられた。

COVID-19禍においては自粛が断続的に発生する可能性も高く、母親や家族だけに子育てを負担させない仕組みづくりが喫緊で必要であると考える。

マルトリ予防に必要な「とも育て」

時に相談・支援機関に対する「援助希求がないこと」による、マルトリのエスカレート(虐待)が起こることがある。

母親の養育ストレスは、きょうどう子育てに重要な「社会脳」と呼ばれる右下前頭回の機能を(一過性にせよ)低下させることが分かっている。このような社会脳の働きの低下を早期に発見し、周囲からの支援につなげることができればマルトリの悪化や虐待を予防できる可能性がある。

マルトリ予防には、「きょうどう子育て」「とも育て」が必要である。

「とも育て」は、対個人・家族として成されるのではなく、保健センター、幼稚園や保育園、学校、児童相談所、仕事仲間やご近所の方なども含めた社会の問題として捉える必要がある。

2015年国連サミットで採択されたSDGsの成果文書にも、「子どもに対する暴力の撤廃」が含まれる。子ども時代の逆境的体験(ACEs)を防ぐためには、再発生の予防や機能障害予防も大切だが、発生を未然に防止するための予防(ポピュレーション・アプローチ)がより重要である。何故なら、ACEsが起こってからの予防は、被害者の精神・身体疾患の長期的、分野横断的な支援や介入が必要となり、コストもかかるからである。

マルトリを予防するため、大阪府2都市での社会実装を行い、養育者支援のための研修・啓発資材『「マルトリ予防」と「とも育て」ってなんだろう?』を2021年3月に完成させた。また、全国に発信し、普及を目指している。マルトリ予防Webサイト「防ごう!まるとり マルトリートメント」(https://marutori.jp/)では、動画や資材を会員向けに無料で提供している。

養育者支援によって子どもの虐待を低減するシステムの構築:https://www.jst.go.jp/ristex/pp/project/h30_1.html
防ごう!まるとり マルトリートメント:https://marutori.jp/

子どもにだけでなく、親にも寄り添う風潮を作りたい

COVID-19による子どもへのサイコソーシャルな影響は測りしれず、しかしながら十分な把握もできていないのではないか。

だからこそ、子どもの心を見守るわたしたち医療者に課せられた使命は大きい。

深刻な虐待に至る前のマルトリや子育てそのものを、家庭の問題だけではなく社会の問題と捉え、地域で子育てを支援する「とも育て」の概念を広めていくことが、結果的にマルトリを予防するために重要であると考えている。

Growth Ring事務局医学生スタッフコメント

マルトリ経験がエピジェネティクスに関与する一方、それによる脳神経系の変化が可逆的である可能性がある点は今後の研究の大きな道標になると感じた。

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