学会レポート

第124回日本小児科学会学術集会

子どものこころへの影響(心身症,不登校診療を通して考える)

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2021年4月16日~18日「第124回日本小児科学会学術集会」での分野別シンポジウム13 「COVID-19のこどものこころや社会への影響:COVID-19と共に暮らす」において、岡田あゆみ先生(岡山大学大学院小児医科学)から、「子どものこころへの影響―心身症、不登校治療を通して考える」と題して2020年における子どもの心身症、不登校診療におけるCOVID-19の影響を振り返り、小児科医の役割についての考察がなされた。

COVID-19を心身医学的視点でとらえる

子どもの心の問題の対応では、準備因子・誘発因子・持続増悪因子・軽快因子の4つの心理社会的因子への理解が重要。COVIDの影響は子どもの置かれている状況によってさまざま。

本人の課題や周囲の変化などの準備因子で脆弱性を抱え、今回の社会の変化のような誘発因子が加わると身体症状や心の問題、問題行動などとして顕在化してくる。

その経過でさらに症状が長引いたり増悪したりするには何らかの因子の影響が考えられる。回復させるためにも心理社会的要因が重要となる。よって、生物・心理・社会的モデルで子どもを理解することが重要である。

身体的疾患、生物学的脆弱性だけでなくその子の性格や認知特性、知的能力、さらに学校や家庭などの周囲の状況など、多面的にアセスメントするのが必要かつ有用である。

我が国の子どもたちの状況

OECDのレポートによると、我が国の子どもたちの貧困状態は平均より割合が高く、課題のために利用できるコンピュータやインターネット環境のある割合は62%と平均よりかなり低く、また、精神的問題を抱える割合は10%である。

新型コロナウイルス(COVID-19)へのOECD政策対応 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が子供に与える影響に対処する
https://www.oecd.org/coronavirus/policy-responses/combatting-covid-19-s-effect-on-children-8df48f29/

児童生徒の自殺者については、令和2年は大幅に増加し1.4倍となった。高校生の女性が顕著に増加。コロナ禍で入院は減っているが神経性やせ症の患者の入院が増えているというオーストラリアの報告がある。日本でも同じ事象を経験しているという声を聴く。

自殺の統計:各年の状況 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/jisatsu/jisatsu_year.html

子どもたちの声とともに、時系列でCOVID-19の心身症、不登校治療への影響を振り返る
(個人が同定されないよう一部改変していますが、守秘に留意ください)

・2020年2月

感染への恐怖や見通しが持てないことへの不安が影響し、すべてを除菌シートで拭く母子や、診察時間を短くしたいという児、保護者のみが受診し診察時期の延期を申し出るケースなどがあった。

・2020年3月

全国の小中高が臨時休校となり支援とつながりにくくなったが、「みんなが休みだと思うと気持ちが楽だ」「単位が危なかったが休校で進級が決まった」など、良い休息になった児もいたよう。

・2020年4月~5月

起立性調節障害のように体力的な問題のある児はペースをつかみやすかったよう。不登校で対人緊張が高い児は、直接交流が減り距離の取れる方が学校活動に参加しやすかった。

ただ、オンライン授業などの取り組みは私立校と一部の公立のみで実施され、学校間の格差があった。家庭のオンライン環境や習い事の有無にも差があった。

子どもたちの声

顔を隠してもいいよと言われたからオンライン授業に参加できた。

オンライン授業だと朝ゆっくり寝られるし、制服は上だけ着ればいいから楽。画面もよく見えるから授業もわかりやすい。私の時代が来た、もっと早くこうなればよかったのに。

高校に入って体力が心配だったが最初が休みで助かった。登校日も午後から半日ぐらいだったから無理なく参加できた。

友達とLINEでお茶会した。1人ずつ順番に喋るから返事がしやすい。勉強も自分のペースでできる。音過敏のため、家だと騒がしくないからよくわかる。

休校で最初はラッキーだと思っていたが、友達と会えないし学校があった方がよかった。(学校に設備がなく、オンライン授業ができない児)

一方、学校がないことが大きなストレスになっている児もいた。家で安心できない児は、学校がないと居場所がないのだと痛感した。

患者・患者家族の声

児:友達と会えないし外に遊びに行けないからイライラする

母:コロナで時短になり収入が減ったため昼夜ダブルワークを始めたところ、留守の間テレビばかり見て昼夜逆転。注意したら子どもが怒ってテレビを壊した。

児:部活が楽しみなのに学校に行けないし親に勉強しろと叩かれるし嫌だ。タバコを吸うのもやめてほしいけど聞いてもらえない。

母:受験生なのにゲームばかりして腹が立つ。思春期だし言いすぎないようにと思ってもつい手が出てしまう。学校の先生は虐待を疑っているみたい。

児:お父さんが家にいると緊張する。怖いから自分の部屋に入っている。

母:お父さんは仕事がうまくいかなくて転職を考えている。明るい雰囲気にしようと思うけれど、こっちが困っているのが伝わっていると思う。

・2020年6月~7月

学校は再開したが、3密を避けた登校や行事の中止、夏休み短縮など子どもたちへの影響は続いた。学校での活動は増えたが、選択肢は増えたり減ったりという状況であった。

子どもたちの声

勉強が遅れているから1日7時間授業の日がある。疲れて居眠りしてしまう。欠席する人も多い。夏休みは短いから辛い

修学旅行がなくなってよかった。車に酔うし皆と一緒に風呂に入るのが不安だった。

オンライン授業が減ってまた授業に参加できなくなった。先生と顔見知りになったから、別室登校をしたいと相談している

・2020年8月~12月

少しずつ生活が元に戻り始めたが、集団行事は規模縮小が続いた。

休校中に真夜中までゲームをするようになってしまい受診し、自閉スペクトラム症、限局性学習症と診断がおりた8歳男児、片頭痛、起立性調節障害の10歳女児の症例について岡田先生より詳細な報告があった。

・2021年1月~3月

1月に非常事態宣言が発出され3月に解除されたが、再び感染者数増加が危惧されている。サポート、ゲートキーパーとしての学校の機能に影響が発生していると考えている。

患者・患者家族の声

児:給食時間中に話してはいけないからあまり食べられない。以前は保健室に行き補食を食べていたが、コロナで禁止になった。

両親:学期の休校の時は1人で留守番していたのでどのくらい食事を食べていたのか分からない。少しやせたとは思っていたが、2学期に保健室の先生から去年より体重が8キロ減ったといわれ、受診を勧められた

児:やせたとは思うけれど病気とは思わない。体重を増やすように言われるけれど嫌だ

また、その後として子どもたちがそれぞれの経験の中で成長している様子も報告された。

COVID-19の子どもへの影響

振り返ると、COVID-19は様々な段階で子どもの生活に影響していた。

感染だけでなく、感染への恐怖が大きく、もともと不安の高い児はより影響を受けていたのではないか。正確な情報と教育が大切だと考える。

休校や活動制限の影響:家庭

生活リズムの乱れ、運動不足、経験の機会の減少、オンラインやメディア視聴の増加などがあった。規則正しい生活が維持できず体調が崩れた児もいた。改めて、生活指導や疾病教育など小児科医として当たり前のことの大切さを感じた。

休校や活動制限の影響:学校

オンラインの学習が始まったが、行事や集団活動の中止や規模縮小があり、情報が少ない中で進路選択をせねばならない子どももいた。学校と距離のある児にとっては過ごしやすかったが、家庭で安心できない児は安全基地が奪われた。

学校の役割

学校は子どもたちの安全基地であり、生活リズムを作り、経験を提供する場所であり、身体疾患や精神疾患の早期発見、ゲートキーパー役も果たす。休校等で学校の役割が制限されるリスクを、我々小児科医は認識しておく必要がある。

コロナ禍の心身症や不登校診療における小児科医の役割

今回、当院受診中の児の経過について子どもの健康度調査(QTA30)を用いて評価したものを、休校前、休校中、休校後で比較したが、どの期間においても有意差はなかった。

症例数が少ないため断定はできないが、治療を継続していたことで大きな悪化を防ぐことができたのかもしれないと考えている。

COVID-19は身体症状発症の誘発因子、または治療中の疾患の持続増悪因子ともなる恐れはあるが、COVID-19も含めたストレッサーがどのようなものであっても、心身症や不登校診療においては、まず周囲と協力して過剰なストレスを減らしていくと同時に、すべてのストレスを減らすことにこだわらず、本人が安心して経験を積み対処能力を向上できるように支援していく、この2つが重要であると考える。

まとめ

  • ・子どもは心理社会的ストレスを言語化できず、身体症状として表現することが多いことに留意して、困っている子どもを早期発見する。
  • ・子どもを生物・心理・社会的モデルで理解することで、子どもの困り感の背景に何があるか気づいて対応する。
  • ・診療の基本は変わらず、子どもに合わせた対応を家族や学校とともに考える。小児科受診も社会経験の1つととらえる視点も重要である。
  • ・長期的な影響に注意が必要で、自殺者数が増えていることも併せ、小児科医もメンタルヘルスのゲートキーパーとしての役割を担っていることを自覚する。

我々小児科医は、成長という追い風が吹いて子どもがぐんと伸びることを知っている。困難な経験は、ときにのちの子どもの支えとなり成長を促す。

小児科医の役割の1つは子どもがCOVID-19をどう経験するか、その過程を家族とともに見守り、応援することではないかと考えている。

Growth Ring事務局医学生スタッフコメント

コロナ禍にあって学校の授業をオンライン化し、登校を減らすのを目指す風潮にあって、休校は「家庭で安心できない児の安全基地を奪う」ことになるという視点は重要であると感じる。

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