学会情報

第53回日本小児感染症学会総会・学術集会

SARS-CoV-2感染に続発する小児多系統炎症性症候群(MIS-C):国内報告のレビュー

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2021年10月9日、10日に行われた「第53回日本小児感染症学会総会・学術集会」でのシンポジウム2「小児におけるCOVID-19」より、今回は日本川崎病学会 鮎沢衛先生(日本大学医学部 小児科)が発表された「SARS-CoV-2感染に続発する小児多系統炎症性症候群(MIS-C):国内報告のレビュー」についてレポートする。

小児多系統炎症性症候群(MIS-C)の報告概要

SARS-CoV-2感染に続発する小児多系統炎症性症候群(MIS-C)の国内報告が今年になってから数例報告されてきたことに伴い、MIS-Cについて認識を共有する。

世界各国での症例報告

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)のパンデミックが始まってまもなく、昨年の3月以後、欧米各国から中東諸国に至るまでの各国で、COVID-19に罹患した小児の中から、川崎病と似た症状を示す例が、数十例ずつ報告されるようになった。これらの報告からは、川崎病との相違点として、平均年齢が高いこと、また人種的に黒人やラテン系の人での発生が多く、逆にアジア人での発生は少ないとされている。川崎病が、日本をはじめとするアジア系の乳幼児に多いことと対照的である。

日本と米国におけるMIS-C症例数比較

アメリカでは、SARS-CoV-2感染小児のうちMIS-Cを発症するのは約1000人に1人、そのうち死亡例は約100人に1人である。これに比べて日本では(10月5日現在)26万人ほどの小児の新型コロナウイルス感染者があるので、米国の割合と同等であれば、260人ほどのMIS-C患者がいる計算になるが、まだ10〜20人程度と思われ、日本人ないし東アジア人はMIS-Cに感染しにくいと推察される。

日本におけるパンデミック下での川崎病とMIS-Cの発生状況

日本川崎病学会の調査では、日本においては、SARS-CoV-2の感染予防対策により川崎病が半数に減った。このことから、川崎病の一部は感染予防で減らせる可能性が高い。同時に感染予防で減らせない川崎病も半数程度あるということが示唆され、日本川崎病学会ではこの現象について注視している。また欧米のように、COVID-19の増加に伴い、川崎病様の症状を続発してくる例が増えるという報告はいずれの施設からもなく、国内でのMIS-Cは2020年のうちには情報がなかった。
しかし、2021年2月に日本川崎病学会あてに、MIS-C疑い例の発生報告があり、学会関係者の情報を調べた結果、SARS-CoV-2感染の後にMIS-Cと思われる症状を示した例が4例見つかった。その後現在まで10例程度が報告されている。

今後の展望

アメリカでは、2021年夏のデルタ株流行の際にMIS-Cが多発すると予想されたが、CDCの報告からは、それ以前ほどの発症数を示していないようである。

日本では、ワクチンの時期が多少遅れたため8月の第5波の影響が出てくると懸念されたが、現時点まで急激なMIS-Cの増加は見られず散発的に報告されるにとどまった。

MIS-Cの症例から読み解く特徴と川崎病との比較

MIS-C症例の定義と特徴

アメリカCDCによるMIS-Cの症例定義では、21歳未満で、熱があり複数の臓器疾患を持つことである。この臓器疾患としては心臓・腎臓・呼吸器・血液・胃腸症状・皮膚の所見・神経症状などがあるが、この中でも胃腸症状・心不全が中心であり、血液の炎症所見もかなり程度が強い。血液の所見で特徴的なのは、リンパ球の減少が非常に著しく10%未満にまでなり、好中球は90%前後まで増加することと、血小板が15万以下の例が非常に多いことである。

国内のMIS-C症例まとめ

報告されている症例をまとめると、以下のような特徴があった。

  • ・年齢は川崎病発症者と比較すると高い
  • ・消化器症状はほぼ必発である
  • ・免疫グロブリンはほとんどの症例でよく効くが、難治性の場合は、経口プレドニソロンや、ステロイドパルス療法を追加している
  • ・SARS-CoV-2の感染に関する検査では、PCRや抗原検査よりも、抗体検査が陽性であることが多い。
  • ・日本のMIS-C症例も、川崎病とは一線を画す、より炎症の強い疾患であると思われる。
  • ・MIS-Cでは川崎病のような冠動脈瘤が出る例は、日本の例については、現時点では非常に少ない。

消化器症状に関する最近の研究について

MIS-Cで消化器症状が多いのは、腸管粘膜の密着結合を緩めるゾヌリン(Zonulin)が増加して粘膜透過性が亢進するためではないかと推測し、そしてその拮抗薬を使うと効果が良かったという、ボストン小児病院のYonker医師の報告では、また、一時期日本の一部で感染が流行して発生したエルシニア感染症は、川崎病の原因の一つと言われているほど、川崎病の症状を呈するが、年長児に多く、またリンパ球の減少から多臓器不全、特に腎臓まで侵すという点でMIS-Cと類似している。エルシニア感染症と同様、川崎病の急性期にみられる症状は、SARS-CoV-2を含む何らかの微生物がきっかけになって発症する可能性があると言える。

MIS-Cと川崎病の症状比較

  • ・MIS-Cは川崎病に比べ、心不全・消化器症状・サイトカインなどの炎症マーカーが非常に強い傾向にある。
  • ・冠動脈の強い炎症は、川崎病の方が強く特徴的と思われる。
  • ・川崎病の外的要因は様々であり、年齢や人種や、千葉大の尾内先生が中心で研究されている遺伝子要因などがある。MIS-Cの要因としてはSARS-CoV-2である。
  • ・MIS-CはSARS-CoV-2の感染後2~6週間で発症するということが大体わかっているが、川崎病については、原因微生物だけでなく、その発症までの期間はわからず、原因不明とされている。
  • ・大人でもMIS-Cと同様の病態が、MIS-Aとして報告され始めており、成人例では、川崎病症状の中では、発熱と発疹と結膜充血は認められやすいが、そのほかの症状は少ないようである。
  • ・新生児での症例報告もみられた。

まとめ

MIS-Cの発症は、日本では欧米に比べて散発的であり、頻度としては20分の1以下もしくはそれ以下と想定される。川崎病と異なり、アジア人には少なく、遺伝的な要因があると推察される。SARS-CoV-2の感染後数週間してからの胃腸症状の発現や心不全症状、血圧低下、ショックなどには注意する必要がある。MIS-Cの病態を研究することで、川崎病の原因究明につながるかもしれない興味深い現象であるといえる。

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