学会情報

第53回日本小児感染症学会総会・学術集会

コロナ禍におけるこどものこころの支援~子どもアドボカシーの視点から~

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2021年10月9日、10日に行われた「第53回日本小児感染症学会総会・学術集会」でのシンポジウム2「小児におけるCOVID-19」より、今回は国立成育医療研究センターこころの診療部 田中 恭子 先生が発表された「コロナ禍におけるこどものこころの支援~子どもアドボカシーの視点から~」についてレポートする。

2020年のCOVID-19の流行開始から1年半が経ったが、コロナウイルス感染症は収束しておらず、休校や部活動の中止の可能性、いつ感染するかわからない状態など先行きが不安定な状況が続いている。こうした状態は、直接、あるいは大人の不安を介して間接的に子どもに精神的な影響を及ぼしており、子どもの心のケアは重要な課題となっている。

コロナ禍の子どものメンタルヘルスへの影響

日本小児科学会のまとめによれば、学校閉鎖は子供を抑うつ傾向に陥らせ、家庭内に家族で引き籠ることでストレスが高まって子ども虐待のリスクが増すことが危惧されている。また、乳幼児健診の受診減少で子どもの心身の健康上の問題に早期介入する機会が制限されていることも問題とされている。

子どものメンタルヘルスに関する研究では、社会的孤立や孤独はうつのリスクを高めることが示されている。その中でも特に自閉症スペクトラム症、ADHDなどの患者は、孤独感の高まりやルーティンの欠如により、既存の問題が増幅されて健康状態の悪化を招く可能性があると指摘されている。欧米の研究では摂食障害の症状は増悪傾向で、不安・ストレスにより食行動のコントロールが困難になっていることが示されている。さらに、入院中の子どもへの親の面会制限から、親にかかるプレッシャーや不安が増大することで、子どもの回復に影響を与える可能性も示唆されている。

コロナこども本部の調査

コロナこども本部は国立成育医療研究センター社会医学研究部・こころの診療部を中心とした研究者・医師有志の集まりである。子どもと保護者の生活と健康の現状を明らかにし、安全・安心につながる具体的な情報を発信することを目的に結成され、昨年の4月から活動を開始した。実施したアンケート調査の一部を抜粋して紹介する。

第2回調査(2020年6月~7月に実施)

ストレス反応

「最近集中できない」、「すぐにイライラする」と答えた子供が3~4割にのぼった。また、自分の体を傷つけたり、家族やペットに暴力をふるったりした子どもも小中高合わせて1割程度存在した。

コロナに対する意識

自分や家族が感染した場合にそのことを秘密にしたいと答えた子どもが3割程度、秘密にしたいと思う人が多いだろうと答えた子どもが半数近くであった。コロナになった人とは治っても付き合うのをためらうと答えた子どもは2割程度、そう思う人が多いだろうと答えた子どもは4割にのぼった。感染に関する人権・道徳的教育が大きな課題であることが示唆される結果となっている。

こどもの話も聞いて

大人たちが子どもの意見や考えをよく聞いていると思うか質問すると、そう思わないと答える割合が中高生で高くなっていた。思春期で、自分の気持ちを素直に表明することが少ない年代ではあるが、大人たちが普段から子どもの話をきちんと聞けているのか今一度見つめなおす必要があると考えられる。

第4回調査(2020年11~12月に実施)

うつ状態と自傷関連

小学4~6年の15%、中学生の24%、高校生の30%に中等度以上のうつ症状があった。うつ症状があれば必ずうつ病ということではないが、ストレス反応が長引き、メンタルヘルスに影響が出ている子どもがいることが明らかになった。

困ったときに相談できる人

困ったときに相談できる相手がいないと答える子どもが1割程度存在した。こういった子ども達をどのように支援につなげていくか考えることも小児科医として重要な課題であると考える。

COVID-19禍の児童青年の抑うつ及び不安症状の世界的な有病率

世界的なメタアナリシスにより、COVID-19流行前に比べて子供たちの抑うつ・不安症状は約2倍に増えていることが示された。特に社会的孤立があった子、節目(イベント)を失った子、学校現場の混乱があった子、そして思春期の子どもでリスクが高かった。大多数の子どもはそういった状況に適応しているが、一部の子どもではメンタルヘルスにコロナ禍の影響が強く出ており、また家庭内暴力などで苦しんでいるという状況が明らかになっている。

コロナ禍の子ども支援

国際児童支援学会が出している、このような状況の中で大人が心がけるべき行動5つを紹介する。

  1. 1. 安心を与える
    事実を忠実に子どもに伝え、子どもなりの納得を得ることが重要である。そして、今できていること、維持できていることに注目し、変わらないことを大事にするべきである。
  2. 2. 勇気づける/ともに学ぶ
    このような状況だからこそ、思いやりを持つことや、セルフケアについて学びの機会を作ることが重要である。医師の立場としては、ワクチンやウイルス、健康管理に関して子ども達に分かりやすく教えることがその一助となる。
  3. 3. まずは大人が深呼吸
    子どもは大人をよく見ており、大人自身のストレスを減らすことが子供に良い影響を与える。
  4. 4. かかわりを持つ
    孤立は心の不具合をもたらすため、SNSなども活用し、これまで維持してきた関係をなくさず持ち続けることが重要である。
  5. 5. 感情の調整を手助けする
    子どもの話や気持ちをよく聞き、ストレスに気づいたら自分で使えるリラクゼーションの方法を伝え、子ども達と一緒に解決法を考えていくことが効果的である。子供の話を聞きながら、子どもの気持ちに「そう思ったんだね」など言葉を添えることで、「受け止めてもらえた、わかってもらえた」という安心感につながる。

子どものセルフアドボカシー

虐待されていたり、うつ・適応障害など精神疾患を持つ子ども、自殺をずっと考えていたりするような子どもへの対応は大きな課題であり、子どもにかかわる大人が人任せにせず、それぞれの専門を生かして職種・機関同士で協力し合うことが重要である。そして、子ども自身の「セルフアドボカシー」も大事になる。

自分らしく生活するために他人に理解してほしいことを伝えることをセルフアドボカシーと呼ぶ。セルフアドボカシーの受け皿として、土日限定で行っている子どもメール相談の件数は2021年8・9月に大幅に増加しており、特に9月は虐待の相談が増えた。子どものレジリエンスを向上するため、まず生育環境に働きかけると同時に子ども自身への情報提供を行い、大人から子ども、子どもから大人、さらには子ども同士で情報共有がなされることで声を上げにくい子ども達の支援に繋がっていくことを願っている。また、こういった状況だからこそ小児科医の力が発揮されると考えている。国立成育医療研究センターではリーフレットや動画を作成し、ホームページにも掲載しているので、ぜひ参考にしていただければ幸いである。

子どもに安全と安心とそして自信を与えるため、今までの体験をばねに、力を合わせてこういった状況に対応していきたい。

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