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学会レポート・取材

(20/11/7、8)第52回日本小児感染症学会総会・学術集会 HPVワクチンのこれから-女性医師から-

HPVワクチン接種をエンカレッジするための啓発の取り組みについて

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2020年11月7日、8日で行われた「第52回日本小児感染症学会総会・学術集会」でのシンポジウム4「HPVワクチンのこれから-女性医師から-」について、今回は丸の内の森レディースクリニック 宋美玄先生が発表された「HPVワクチン接種をエンカレッジするための啓発の取り組みについて」についてレポートする。

HPVワクチンをめぐる現状

2013年に積極的推奨が控えられてから接種率はほぼゼロになり、HPVワクチンに関する報道もネガティブ一色となった。だが、2015年に村中璃子氏の「あの激しいけいれんは本当に子宮頸がんワクチンの副反応なのか」という記事が出て以来、有効性や、副作用報道への疑義も報道されるようになり、2020年に9価ワクチンが承認され自治体が通知送付を開始した。

子宮頸がん診療に関わる医師の活動

産婦人科医が菅官房長官(当時。現首相)や厚生労働省の官僚と面会し、様々な意見の交換などを行ってきた。

インタビュー調査

2015年12月2日、16日に、副反応報道を受けてワクチンの接種に消極的になっている母親の接種に対するバリアを掘り起こす目的で、対象者に複数のメッセージを見せてその反応を検証した。調査対象は、接種対象年齢でワクチン未接種の娘を持つ母親計8名。

1.副反応に対する世界の専門機関の認識

WHOは「慢性疼痛が子宮頸がん予防ワクチンの副反応であるとする理由はほとんどない」と公式に発表している。

これに対して、

  • ・WHOはあまり信用できないという意見が多い
  • ・それが正しいならなぜ日本でワクチン接種を中断しているのかがわからない

という反応が寄せられた。

2.副反応に関する日本の専門機関の認識

日本産科婦人科学会は「広範な疼痛・運動障害等とワクチンとの因果関係を示す科学的・疫学的根拠は得られていません」との公式見解を発表した。

これに対して、

  • ・製薬会社とのつながりを勘ぐってしまい信用できない
  • ・これだけでは不安は軽減されない

という反応が寄せられた。

3.医師の勧め

「医師として、自分の娘にも子宮頸がんワクチンを受けさせます」というメッセージに対して、

  • ・安心とまでは思わないが、「学会が推奨」より信用できる

という反応が寄せられた。

プロジェクト「みんパピ!」

「みんパピ!」は「みんなで知ろうHPVプロジェクト」の略。HPVワクチン推奨再開を待ち望む世論の受け皿となった啓発団体で、産婦人科医のみならず小児科医・行動科学の専門家が参画している。

行動科学に基づくひと工夫でワクチン接種に関心のない層にリーチしたり、信頼関係のあるかかりつけ医(小児科医)から周知したりすることが接種行動につながりやすいと調査で判明した。小児科医から接種を勧めてもらうためのリーフレット作成や、動画コンテンツやその他のプロジェクトの計画も進行中ということで、期待されている。

変わり始めた大手メディア

大手メディアは副作用を煽るような報道を沢山した後、ここ数年はHPVワクチンについて全く報道しないということが続いた。最近になってHPVワクチンの報道や、推奨中止による死亡者数増加の懸念なども報道するようになった。

啓発活動の課題

子宮頸がんの診療に関わる医師やワクチンを打つドクターでもある小児科医、その他メディアに関わられてきた医師の方など複数の方が現在啓発活動をされているが、考えられる現状の課題をまとめてみた。

1.集客型・シェア型ではもともと意識の高い人にしか届きづらい

コロナ前ではホールを貸し切って子宮頸がんについて啓発するイベントが各地で開かれていたが、そういった集客型・シェア型の所に足を運ぶ人は元々意識の高い人である。よほど広告費をかけなければ、SNS等を利用しても、まったく関心のない人には情報が行き届かない。そのため、草の根的に広めていかなければならないという課題が生じている。

2.子宮頸がん当事者からの発信が少ない

医師やメディアでは熱心な方々が現れてきたが、子宮頸がんの当事者(患者、患者家族、遺族など)からの発信が少ない。医者が打ちましょうと言っても、立場の上下のような壁を感じ、信じてよいのか不安になることがあると思われる。

子宮頸がんワクチンの副作用報道が多かった2013年当時、ワクチン反対派は「子宮頸がんは検診で早期発見でき、命や子宮を失うことはないのでワクチンは有害で不要である」ということを言っていた。

このため、「子宮頸がんにかかってしまった人は、性的な行為でHPVに感染した上に頸がんの検診を受けなかったのだから自己責任だ」という子宮頸がん患者へのある種のバッシングがあった。そのため、子宮頸がんの当事者の方が自ら発信するのが難しくなってしまったと考えている。

医師の立場からは、今後更に子宮頸がんワクチンについての理解を深めていくには当事者の方と一緒に啓発活動をしなければならないと日々感じている。

3「.積極的推奨はしないように」の壁

もう1つは、「積極的推奨はしないように」という厚労省からの通達の壁がある。

子宮頸がんワクチンについて各家庭に個別通知されるようになったが、積極的推奨は再開されていないので、地域によっては「お知らせはするが積極的推奨はしないように」と保健所から医療機関にFAXが届くなどしている。

しかし、「積極的推奨」とはなんでしょうか?

元々はワクチンの問診票を各家庭に送ることは積極的推奨であるとされたが、現在個別通知はするが今回はお知らせするだけですよという形になっており、現場では混乱を招いている。そのため、先日「積極的推奨」の具体的な定義をしてほしいと政務官に伝えている。

今後の展望

1.自治体からの個別送付による"知らなかった層"へのリーチ

自治体からの個別送付により「そもそもワクチンを知らなかった層」にリーチされる。副作用報道も7年程経つので知らない人も多い。今年に入って9価ワクチンが承認され、ポジティブな報道もなされているので、多くの地域で子宮頚がんワクチンを打つ人が増えていると感じるドクターが多いようである。今後打つ人が急速に増えてくる可能性が期待できる。

2."みんなが打つなら打つ"という層が多い

「どうしたら打ちますか」という調査をされたときに「みんな打っているなら打つ」と答えた人が多いので、半分ぐらいの人が打てば残りの人も雪崩を打ってワクチン接種をするだろうと考えられる。また、打った経験者の発信は人の心を動かすのではないか。

みんな打っているから打とうというとなるまで啓発することが必要。逆にそのレベルまで行くと、日本に入ってきている子宮頸がんワクチンの量ではどこかで不足すると考えられる。年間20万から30万人分しか入荷されていないので、不足報道が出た場合、むしろ「早く打たないと」という動きになる可能性もある。そのような日がきたら、今まで活動してきた者としては非常にうれしいこと。

大分風潮も変わってきているので、来年あたりにそのような状態になることも期待しながら活動を続けたい。

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