学会情報

第52回日本小児感染症学会総会・学術集会

HPV ワクチン接種後の疼痛と不定愁訴を理解し予防するために
(小児科医から)

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2020年11月7日、8日で行われた「第52回日本小児感染症学会総会・学術集会」でのシンポジウム4「HPVワクチンのこれから-女性医師から-」より、今回は関西医科大学 小児科 大阪小児科医会 石崎 優子先生が発表された「HPV ワクチン接種後の疼痛と不定愁訴を理解し予防するために(小児科医から)」についてレポートする。

HPVワクチン接種後の副反応はHANS?機能性身体症状?

HPVワクチンの接種後の症状について、HPVワクチンそのものによるものであるとする立場と、HPVワクチンとは分けて考える立場がある。

前者の立場をとる医師は、HPVワクチン接種後に現れる不定愁訴をまとめたHANS(HPVワクチン関連神経免疫症候群)という概念を提唱している。

HANSの大基準には痛み、関節痛、疲労、神経症状、感覚・情動障害、脳画像異常所見などが含まれる。

後者の立場をとる倉根一郎医師は、HPVワクチン接種後の症状は、神経学的疾患、中毒反応、免疫反応、機能性身体症と述べている。機能性身体症状は知覚と運動の解離症状と自律神経症状からなる。

HPVワクチン接種後の症状の関連についての考察

以下、起立性調節障害、POTS及びdeconditioning(ディコンディショニング)、および不活動と疼痛の関連とHPVワクチン接種後の症状の関連について考察する。

起立性調節障害

起立性調節障害の症状として、立ちくらみ、失神発作、イライラ感などがあるが、これらの症状はHPVワクチン接種後に生じる症状と重なる部分が多い。HANSの痛み以外の症状は起立性調節障害で差支えないと考えられる。

POTS

小児のPOTSは日本では小児の起立性調節性障害のサブタイプであるとされ、起立時の脈拍変動のパターンで捉えられることが多い。

POTSの臨床症状として、立位による下肢への血流鬱滞に伴う動悸や下肢のチアノーゼなどの心血管系症状のほかに、消化器症状、神経症状、筋骨格系症状、呼吸器症状など多彩な症状がみられる。また、実行機能・認知機能に関連する症状も多く報告されており、その原因として脳血流低下が考えられる。

不活動とdeconditioning(ディコンディショニング)

身体の不活動に伴い引き起こされる筋、骨格、循環、呼吸機能など身体能力の低下を指す。ディコンディショニングの典型を示すものとしてベッドレスト実験があるが、20日間のベッドレスト実験では健常な若年者12名中10名に起立耐性の低下が生じた。

また、起立性調節障害が1990年代に米国で流行した原因として、身体活動の低下、寝転んですごす時間の増加、夜更かしなどが関与しているとされた。

不活動と疼痛の関連

HPVワクチンの有害事象の1つは痛みであるが、痛みと不活動は相互に関係していると考えられる。不動が引き起こす疼痛の機序として、Fear-avoidance modelとExercise-induced hyperalgesia modelが有名。Exercise-induced hyperalgesia modelは、疼痛が生じることで不活動状態になり、運動耐容能が低下し運動による痛覚過敏が生じる。

HPVワクチン接種後の痛みによる不活動からディコンディショニングが起こり、動悸、ふらつき、全身倦怠感、パニック、チアノーゼといった症状が起こってくる可能性もある。

一方で、痛みによる不活動からさらなる痛みが起こってくる(Exercise-induced hyperalgesia model)。痛みは難治化し、慢性疼痛によるうつや不安も起こりうると考えられる。

紛れ込み

また、WHOのGACVSはISRRという概念を提唱しているが、これは迷走神経反射、過換気、解離症状などHPVワクチン接種後に生じる多彩な症状を含む概念であり、個人だけでなくグループ単位で生じることもあるとしている。HPVワクチン接種後の症状の一部はこういった疾患の紛れ込みである可能性が考えられる。

HPVワクチン接種後の症状をあらためて考える

HPVワクチン接種後の症状の一部は紛れ込みであると考えられるほか、HPVワクチンの痛みが不活動を引き起こし、心血管系ディコンディショニングによって動悸やふらつき、疲労感などの症状が起こりうる。また、不活動により更なる痛みが惹起され、難治性慢性疼痛となることでうつなどの精神障害を含む二次障害も引き起こす可能性がある。

HPVワクチン接種後の症状への治療

こういった症状に対する望ましい治療としては、以下のようなものが考えられる。

  • ・起立性頻脈症候群:薬物療法に先行し非薬物療法(水分、運動、心理療法)が重要である
  • ・ディコンディショニング:運動療法が必要である
  • ・運動誘発性疼痛:運動療法が必要である

これらを総合し、HPVワクチン接種後の症状に対して正しい理解を持つとともに、認知行動療法及び運動療法を行うことが望ましいと考えられる。

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