学会情報

第52回日本小児感染症学会総会・学術集会

大阪小児科医会の取り組み

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2020年11月7日、8日で行われた「第52回日本小児感染症学会総会・学術集会」でのシンポジウム4「HPVワクチンのこれから-女性医師から-」について、今回は大阪小児科医会 久保田恵巳先生が発表された「大阪小児科医会の取り組み」についてレポートする。

接種に対して前向きな対応になってきている小児科医、産婦人科医

HPVワクチンの積極的勧奨差し控えが6年以上続き、接種率は1%未満に低下している。大阪小児科医会では2019年より議論を重ね、HPVワクチンに対する3つのアクションプランを決定した。詳細を以下に記す。

大阪小児科医会の会員へメールで情報提供

1.会員に対する啓発・広報活動

大阪小児科医会の会員に対しメールで号外ニュースレターを送付し、子宮頸がんとHPVワクチンの有効性と安全性評価、及び自治体の対応と質問主意書に対する政府答弁についてその時点での最新の情報を発信した。

主要な全国疫学調査についても紹介し、ワクチン接種後に報告された慢性疼痛や運動障害を含む多様な症状について、ワクチン接種とそのような症状の因果関係が医学的に証明されていないこと、また男性に対するワクチン接種も推奨されているオーストラリアでは子宮頸がんが10年以内に希少疾患になると推定されていることも取り扱った。

73%がHPVワクチン接種に対し積極的だが、依然少ない接種数

2.会員の意識調査

2020年1月23日から2月2日にかけて会員を対象にアンケートを行い、接種状況などについて調査した。回収率は28.6%であった。

回答者の44%がHPVワクチンの接種を行っており、「積極的勧奨が再開されれば接種を再開する」との回答も29%みられ、接種に対し積極的な姿勢を示した回答者が計73%となった。

接種に対する不安がないとの回答も64%であった他、家族に対象者がいた場合に接種を勧めると回答した医師は83%にのぼった。

しかし、79%が最近6か月のワクチン接種本数は1~10本と回答しており、積極的勧奨差し控え前より接種数は依然少ない。更に、医療者が勧めた際にワクチン接種に至る割合は20%未満であるとの回答が55%、20~40%未満であるとの会員が14%で、接種を推奨するだけで接種につなげられる状況ではないことが示唆された。

接種に関する不安の内容としては、メディアで報道された多様な症状に対する不安と注射部位の局所的な症状や迷走神経反射に対する不安を訴えたものが一番多かった。

これらの結果より、接種の促進のためには、科学的に正確で、さらに副反応に対するセイフティネットについての情報を医療者及び被接種者の両方に発信していく必要があると考えられた。

2015年と2017年に大阪大学付属病院の産婦人科及びその関連病院で研修を受けたことがある医師に対し実施したアンケートでは、「政府が積極的勧奨を再開すべきであると」の回答、「ティーンエイジャーにHPVワクチン接種を推奨する」との回答、及び「自分の10代の娘に接種した」との回答はすべて2017年で増加していた。

大阪小児科医会のアンケート結果と総合して考えると、現場で接種を担当する産婦人科及び小児科の医師の多くはワクチン接種に対し前向きに対応していると考えられた。

2020年10月に厚生労働省がHPVワクチンリーフレットを改訂

3.行政に対する働きかけ

大阪府知事及び府内各市町村あてにHPVワクチン定期接種の周知等に関する要望書を提出した。(https://www.osk-pa.or.jp/%e6%9c%aa%e5%88%86%e9%a1%9e/202006193281.html

2020年10月には厚生労働省がHPVワクチンリーフレットを改訂し、同時に厚労省健康局よりHPVワクチン接種について各自治体から個別通知を求める通達があった。(https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou28/index.html

積極的推奨となる内容を含んではならないとされたが、HPVワクチンを取り巻く環境は前進してきていると考えられる。

正しいメッセージを届けることの難しさ。SNSを使った情報提供は有効か?

HPVワクチンに関し、科学的に正確な情報よりも、感情を揺さぶるような情報に世論は左右されやすい。

アメリカで2019年に行われた調査ではインスタグラムのHPVワクチンに関連する投稿が調べられた。ワクチン賛成派の投稿数とワクチン反対派の投稿数は同程度であったのに対し、"いいね"の数は後者が前者の3~4倍であった。

反対派の投稿は個人的な信念や誤った情報を物語的に投稿したものが多かったのに対し、賛成派の投稿は個人の接種に関する単純な投稿が多く、ワクチンの有効性について継続的に発信するものはほとんど見られなかった。

インスタグラムなどのSNSはティーンエイジャーに対してワクチンに関する情報を発信するのに有効な方法になりうる。

日本にも、「みんなで知ろうHPVプロジェクト」、略して「みんパピ」(https://minpapi.jp/)という取り組みがあり、HPVワクチンに関する正しい情報を、SNSなどを通し分かりやすく発信している。しかし、SNSを通し誤った情報が拡散される危険性もある。

医療者は科学的根拠を持って正しい情報を発信し続けねばならないが、より具体的で、受け手に主体的に考えてもらえるような発信の方法を考えていく必要がある。

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